辺境に嫁いだ皇女は、海で真の愛を知る

明け方前の薄闇。
ジョサイアの操舵の音だけが
静かな船の甲板に響いていた。

デクランは手すりに寄りかかり、
遠い水平線を見つめていた。
潮風が冷たい。
胸の奥も、同じように冷えていた。

太陽が高く昇りきった頃、
この船はアルドレインに着く。
それは作戦成功を意味する。
ファティマを守るという、
自分の使命が終わることを——。

だが、
その先のことを考えると胸がつまった。

ファティマは今もまだドノヴァン侯妃だ。
本来なら、彼女の国へ戻るのが“正しい”。
自分と彼女の関係は、
元の「交易相手」へ戻るだけなのか……?

(また……彼女は遠くに行ってしまうのか?
 僕の気持ちは……どうしたらいい?)

拳をきつく握ったその時。

「おい、また難しい顔してんのか。」
背後からカーティスが現れた。
心なしかいつもの皮肉屋の顔が少し柔らかく見える。

「……カーティス。すまない、起こしてしまったか?」

「お前みたいに悩むやつは、夜でもうるさくて眠れねぇんだよ。」

わざとらしく言いながら隣に立つ。
「で?
 ファティマ様のことで悩んでるんだろ。」

デクランは大きく息をのみ、顔を背けた。
「……どうしてそう思う?」

「お前が悩む原因なんて、それくらいしかねぇ。」

短い沈黙。
風が二人の間を吹き抜けていく。