辺境に嫁いだ皇女は、海で真の愛を知る

ドラゴニアの港からアルドレインまでは
5日間の航海なのだという。
船はひたすらアルドレインを目指して
広い大海原を進む。

アズールティアの面々は海上生活も慣れっこで
風の流れに合わせて帆の向きを変えたり、
船の上で釣りをしてその場で捌いたり、
和気あいあいと楽しんでいる。

帝国の軍艦にしか乗ったことがないファティマには
この様な生活は初めてだった。

そして夜。
雲が切れて、
月の光で海がキラキラと輝いている。

今夜の見張り番はデクランだった。
一人で見張り台に立っていたが、
ふいに足音がしてファティマが現れる。

「どうされましたか?のどが渇きましたか?」

「ううん。あのね、デクラン。……私も見張り番を交代するべきだと思うの。」
船は夜も進む。
誰かが起きて進路を確認していないと
あらぬ方向に船が進んでしまう。
何か非常事態が起こる可能性もある。
だから毎晩、
男たちが交代で船の見張り番をしていたのだ。

デクランは困った顔で微笑む。
「あなたの気持ちは嬉しいけど大丈夫だよ。僕たちは慣れっこだから——マリナだって休んでるし。」

「彼女は料理や洗濯をしてくれているでしょう。何もしていないのは私だけ。そんなの申し訳なさすぎるわ。お願い。せめて……10分だけでいいから。少しでも役に立ちたいの。」

その必死の表情に、デクランは折れた。
「……わかった。じゃあ一緒にやろう。」

ファティマは目を丸くした。
「一緒に?」

「そう。二人で見張れば心強いでしょう?」

ファティマの胸がじん、と温かくなる。
“守られる側”じゃなくて、
“並んで立っていい存在”に扱われている——
初めての感覚。