ドラゴニア帝国海軍が追撃してくるかもしれない。
しかし――ジョサイアは微塵も慌てなかった。

「あいつらは執念深いからな。けど心配いらねぇ。アズールティアが誇る海の男を舐めるなよ!」

彼は甲板に立ち、
海へ指先を伸ばして風の向きを確かめる。
海面のさざ波、雲の厚み、潮の“匂い”。
そのすべてを読み取り、
彼は一気に帆の角度を変えた。

「いまから1刻後、潮が西へ跳ねる。ドラゴニアのバカでかい軍船じゃついて来られない。」

ジョサイアの読みは完璧だった。
潮の境目で一気に方向転換し、
海流に乗せて船を滑らせると――
あっという間にドラゴニアの港は
遠い水平線の彼方へと距離が開いていった。

「……ジョサイアさん、すごい!」
ファティマが歓声を上げる。

「へへ。デクラン王子のお嬢さんを海に沈ませる趣味はないんでね。」
ジョサイアは軽口を叩きながらも、
二人を絶対に守るという気迫に満ちていた。

「ジョサイア、変なことを言うんじゃないっ!」
デクランが照れながら訂正するも
ジョサイアは笑うだけ。
レオナードもカーティスも、
デクランを冷やかして面白がっている。

こうしてなんとかドラゴニアを振り切り、
一同を乗せた船は、ついに大海原へ――。