そんな決意を胸に秘めていても、
侯国での生活はやはり想像以上に過酷で、
重すぎる政務が毎日ファティマに押し寄せる。
城の書庫で書類を整理し、
民の税収や交易記録を照合する日々――
日が暮れても、侯国の運営に目を光らせるのは
皇女として培った責任感故だった。
孤独と疲労は、
次第に心の奥に重くのしかかる。
そんなある日。
今日は交易のため、
アズールティアの使者団が来る日ということで
ファティマは港町に来ていた。
ファティマは政務書類の整理を終え、
休息もそここに使節団を出迎える準備をする。
ファティマがアズールティアの使節団に会うのは
今日が初めてである。
港の石畳を軽やかに歩く足音が聞こえる。
「アズールティアの担当役人かな……」
そう思った次の瞬間、
視界に入ったのは、思いがけない人影だった。
――茶色のリネンシャツに、軽くまくった袖。
足元は海辺らしいサンダル。
海風に揺れる栗色の髪。
人懐っこい笑顔で港の民に軽く手を振る
その青年とその一団は、
ファティマのイメージする使節団ではない。
「……誰?」
ファティマは一瞬、目を疑った。
穏やかな日差しの下、少年のようにあどけない笑顔。
それでいて、どこか凛とした空気をまとっている。
ラフな格好の彼は、
交易担当の役人としての顔を持ちながらも、
その瞳は真剣で、柔らかい光を帯びていた。
青年もまた、ファティマに気づいた瞬間、
少し目を見開いた。
「おや……あなたが噂の侯妃様では?まさかここでお会いするとは」
その声は柔らかく、
でも確かな落ち着きがあった。
「あなたがアズールティア……の……?」
ファティマの心はざわめく。
彼の名は聞いていたが、
まさかこのような気さくな姿で現れるとは
思わなかったのだ。
彼は軽く頭を下げ、にこやかに言った。
「僕はデクランです。港の取引の件で伺いました――」
ファティマはぎこちなく礼を返す。
彼の微笑みに、胸が少しだけ、温かくなる。
侯国での孤独と冷遇の中で、
こんな笑顔を向けられるのは初めてだったから。
「……よろしくお願いします」
静かに言葉を返し、
ファティマは少しだけ背筋を伸ばす。
心の奥で、何か小さな光が灯った気がした――
この出会いが、やがて彼女の絶望を救い、
そして運命を変えることになるとは、
この時点ではまだ誰も知らなかった。
侯国での生活はやはり想像以上に過酷で、
重すぎる政務が毎日ファティマに押し寄せる。
城の書庫で書類を整理し、
民の税収や交易記録を照合する日々――
日が暮れても、侯国の運営に目を光らせるのは
皇女として培った責任感故だった。
孤独と疲労は、
次第に心の奥に重くのしかかる。
そんなある日。
今日は交易のため、
アズールティアの使者団が来る日ということで
ファティマは港町に来ていた。
ファティマは政務書類の整理を終え、
休息もそここに使節団を出迎える準備をする。
ファティマがアズールティアの使節団に会うのは
今日が初めてである。
港の石畳を軽やかに歩く足音が聞こえる。
「アズールティアの担当役人かな……」
そう思った次の瞬間、
視界に入ったのは、思いがけない人影だった。
――茶色のリネンシャツに、軽くまくった袖。
足元は海辺らしいサンダル。
海風に揺れる栗色の髪。
人懐っこい笑顔で港の民に軽く手を振る
その青年とその一団は、
ファティマのイメージする使節団ではない。
「……誰?」
ファティマは一瞬、目を疑った。
穏やかな日差しの下、少年のようにあどけない笑顔。
それでいて、どこか凛とした空気をまとっている。
ラフな格好の彼は、
交易担当の役人としての顔を持ちながらも、
その瞳は真剣で、柔らかい光を帯びていた。
青年もまた、ファティマに気づいた瞬間、
少し目を見開いた。
「おや……あなたが噂の侯妃様では?まさかここでお会いするとは」
その声は柔らかく、
でも確かな落ち着きがあった。
「あなたがアズールティア……の……?」
ファティマの心はざわめく。
彼の名は聞いていたが、
まさかこのような気さくな姿で現れるとは
思わなかったのだ。
彼は軽く頭を下げ、にこやかに言った。
「僕はデクランです。港の取引の件で伺いました――」
ファティマはぎこちなく礼を返す。
彼の微笑みに、胸が少しだけ、温かくなる。
侯国での孤独と冷遇の中で、
こんな笑顔を向けられるのは初めてだったから。
「……よろしくお願いします」
静かに言葉を返し、
ファティマは少しだけ背筋を伸ばす。
心の奥で、何か小さな光が灯った気がした――
この出会いが、やがて彼女の絶望を救い、
そして運命を変えることになるとは、
この時点ではまだ誰も知らなかった。



