辺境に嫁いだ皇女は、海で真の愛を知る

謎の行商人はふらふらとこちらにやってきて、
兵士を押しのけて中を覗き込む。
「なんだ、お前らか!おいおい、兵士さん。こいつらは俺の馴染みの商家だぜ?香辛料泥棒じゃねぇよ。長男が別嬪さんを嫁に捕まえた!ってこの前旦那がえらく自慢してたが、こりゃホントだなー」

男の一方的な話が続く。
「新婚ホヤホヤのカップルもいるんだ。コイツラの身元は俺が保証するからさ。あんま疑ってやんなよ」

兵士たちは顔を見合わせる。
謎の行商人の馬車には
大量の荷物と正規の許可証が積まれていた。

彼はこの街道では有名なのだろうか?
よくわからないが彼に歩調を合わせて
この場を乗り切るしかない。
デクランはそう判断して
兵士に声をかける。
「我々は単なる旅のものだ。妻が長旅で体調を崩しており、早く休ませてあげたいんだ。疑いが晴れたなら通してほしい。」

兵士たちは躊躇するが
業を煮やした謎の商人が畳み掛ける。
「早くしてくれよ。こちとら時間が迫ってるんだ。船の出航に遅れてみろ?俺のビジネスがパーになるんだぜ!?お前らその責任取れんのか?」

なおも商人はまくし立て、
兵士は剣から手を放した。
「……チッ。うるさいな。もう行っていい」

「話せばわかるじゃねーか。毎度あり〜!」

行商人が大げさに手を振る。
デクランは視線で「助かった」と伝えた。

「旦那、また一杯やろう!」
レオナードもさも友人というように
謎の商人に手を振る。

行商人はにやりと笑い返した。