辺境に嫁いだ皇女は、海で真の愛を知る

「おい、お前」
兵士が顎をしゃくる。
やはりファティマを不審に思ったようだ。

「どうにも怪しい。
いかにも貴族って感じの女だ。
こんな粗末な馬車に乗る娘じゃないな?」

ファティマの背に冷たい汗が伝う。

デクランがすかさず肩を抱き寄せる。

「彼女は俺の婚約者だ。商売の旅に同行してるだけで――」

「なら証拠は?」
兵士が剣の柄に手をかけた。

(……まずい!)

兵士が全員を見回し、声をあげた。

「お前ら、本当に家族か?
ちょっと詳しく調べさせてもらう!」

馬車の後ろに控えていた別の兵士が、
荷物を漁るべく近づいてくる――。

絶体絶命の瞬間。

「おやおやぁ〜? こんな朝っぱらから検問とは、ご苦労なこったな!」

やけに明るい声が後方から飛んできた。

兵士達の視線が一斉に振り向く。

そこには――
派手な衣装を羽織った行商人風の男が
派手な馬車を引き連れている。
その後ろには、のんきそうな助手が二人。

男は兵士の肩を豪快に叩きながら笑う。

「この辺りで香辛料泥棒が出たって聞いたもんでな!
オレも気をつけねぇとな〜!」

兵士が眉をひそめる。

「誰だ、お前は?」

「ただの通りすがりの行商人さ。
――で、そこの馬車になんか文句でもあんのかい?こいつらが噂の香辛料泥棒か??」

行商人はニヤリと笑い、
ファティマ達の馬車へ視線を向けた。

その目が、一瞬だけ誰にも気づかれぬように
デクランへ合図する。

(……味方!?)

デクランは直感で悟った。