辺境に嫁いだ皇女は、海で真の愛を知る

ところが――前方に検問の兵士たちが。

「……まずい。検問だ」
窓際に座っていたカーティスが低く呟いた。
街道の途中、
荷車が数台止められ、
兵士が旅券を確認している。

ファティマの胸がぎゅっと縮む。
昨夜の騒ぎで、
間違いなく捜索は始まっているはずなのだ。

案の定、
デクランたちの馬車も止められる。
兵士が二人、険しい目で覗き込んだ。

「旅券を見せろ」

レオナードが落ち着いた手つきで
偽造旅券を差し出す。
じっと目を通す兵士。

しばし沈黙の後、
憮然とした顔で旅券は突き返された。
偽物だとバレなかったらしい。
ホット胸を撫でおろす一同。

「……随分と遠くから来てるんだな。商売は何だ?」

「香辛料でございます」
レオナードが商人らしい調子で答える。

ここまでは問題ない。

だが――兵士の視線が、
ファティマで止まった。

ファティマはできるだけ顔が見えないように
伏し目がちになる。
ファティマの顔は帝国中に知れ渡っている。
マリナが変装用の化粧を施してくれたが、
至近距離で見られてはバレるかもしれない。

デクランやカーティスもつばを飲み込む。
ファティマから自然に滲み出る
洗練された気品。
それは庶民のものではないのだ。