辺境に嫁いだ皇女は、海で真の愛を知る

作戦会議が終わり、
少しでも休息を取ろうと
皆がそれぞれに散ったころ。
示し合わせたわけでもないが、
デクランとファティマは二人きりになった。

ランプの炎が、
ファティマの横顔に金の縁を描く。

「……助けてくれて、ありがとうございました」
ファティマが深々と頭を下げた。

デクランは慌てて手を振る。
「僕だけの力じゃないよ。
アルドレイン王妃殿下が、あなたの危機を教えてくれたんだ。ヴァリニア国王夫妻も、ビンセントも……多くの人があなたのために動いてくれたんだよ」

一瞬、ファティマの目が潤む。
「そう。私の手紙は無事にフィロメナに届いたのね。そして、あなたが来てくれた……でなければ私は」

声が震え、言葉が続かない。

デクランは静かに言った。
「無事に助けられて良かった。……本当に」

しばらく二人の間に沈黙が落ちた。
だがファティマは不意にくすりと笑う。
「――逃げる途中、私のこと……呼び捨てにしたわよね?」

デクランの目がまん丸になる。
「そ、それは……! 緊急事態で、つい勢い余ってしまって……!申し訳ございません、とんだご無礼を――」

「いえ。怒っているわけではないのです」
ファティマがそっと近づき、見上げた。
その距離、息が触れ合うほど。