辺境に嫁いだ皇女は、海で真の愛を知る

一方その頃。

王宮の影で身を潜めていたファティマとデクランは、
仲間たちの導きで裏回廊へと走っていた。

「こちらです、侯妃様!」
マリナが風のように先導する。
彼女は数日前から協力者の侍女と入れ替わり、
城の内部構造を把握していた。

「東の螺旋階段は封鎖されかけている。西だ!」
レオナードが短い指示を飛ばす。

足元に響く兵隊のブーツの音。
背後では兵の怒号が近づいてくる。

「ファティマ、走って!」
デクランはファティマの手を強く引く。

初めてデクランからファティマと
名前を呼び捨てにされたことに
ドキッとするが、
今はそんなトキメキに浸っている場合ではない。
ファティマは必死に息を吸い、
ドレスの裾を握りしめて走る。

(逃げるなんて……帝国の皇女として許されることじゃない。でも……)

デクランの背中だけが、
視界にまっすぐ見えていた。
(この機を逃せば、デクランとは二度と会えなくなるかもしれない。彼となら……私は生きられる……!)