侯国の城に足を踏み入れた日から、
ファティマの生活は思いもよらぬ方向へと狂い始めた。

ドノヴァン侯は、
侯国の城における「夫」としての責任を
一切放棄していた。
酒を飲み、愛人を引き連れて城中を歩き回り、
政務にはまったく関わらない。

「皇女殿のお手並み拝見といこうか!」
侯爵の無邪気な笑顔に、
ファティマの胸は冷たく沈む。
目の前で愛人と戯れる夫の姿を見て、
誇りは深くえぐられた。

だが、ファティマは嘆きに沈むだけではなかった。
豊かだと聞いていた国は、
実は砂上の楼閣だった。
城の役人たちは、
侯国の政治が滞り、困り果てていたのだ。
税収も貿易も停滞し、民は不安に震えている。

「こんな状態では国が滅んでしまうわ……!」
怒りと焦燥の中、ファティマは心を決めた。