辺境に嫁いだ皇女は、海で真の愛を知る

「……だから僕は、姉上のためなら何だってできます。
姉上は僕にとって、救いそのものなんです」

ビンセントは真剣そのものの瞳で
デクランを見る。

「姉上の好きな花、飲み物、朝に読む書物、
落ち込んだ時の癖、嫌いな食べ物……全部覚えてます」

「え、全部……?」
デクランは目を瞬いた。

ビンセントは指を折り始める。
「好きな花は“青いジャスミン”。
お気に入りの飲み物は蜂蜜入りの白茶。
朝は必ず鏡の前で髪の毛を結ぶ前に深呼吸をして、
緊張してる日は右手の指輪を二回触る癖があって……」

「……えっと」

「あと好きな香りはローズマリー。
嫌いな食べ物は酸っぱいもの。
眠れない夜は真珠の数珠を手の中で転がす癖があって、
ストレスが溜まると詩を書き散らかして──」

「ちょ、ちょっと待って」
デクランは思わず制止した。

(――え? この子、重度のシスコン……?)
涼やかな見た目からは想像がつかない姿に
嫉妬とも、焦りともつかない衝撃が胸に刺さる。

「……あなたは、本当に姉上を大切に思っているんですね」

デクランが少しだけ表情を曇らせたのを見て、
ビンセントは目を瞬いた。

「もちろんです。姉上以上の女性はこの世に存在しません。世界で一番大切な人です」

(きっぱり言い切った……!ここまでくると、逆に清々しいな)

デクランの胸に、
今まで感じたことのない種類の“嫉妬”が芽生える。
自分にも4人の姉がいるが、
ビンセントのような熱い感情を持ったことがない。
食べ物の好き嫌いぐらいは知っているが、
それぞれの癖まではさすがに知らないし、
知ろうとも思わなかった。