辺境に嫁いだ皇女は、海で真の愛を知る

早速。
国境の隠れ家として使っている小さな民家に
ビンセントを誘ったデクラン。
粗末なランプの灯りの下、
デクランとビンセントは向かい合って座っていた。
デクランの仲間は既に就寝している。

沈黙を破ったのは、
ビンセントだった。

「……姉上は、昔から本当に優しくて。
僕が泣いていると、夜中でも起きてきて抱きしめてくれたんです」

デクランが顔を上げると、
ビンセントは懐かしそうに微笑んでいた。

「兄のクレオールは僕を“無能”と叱りつけてばかりでしたが、姉上はそんな僕に“ビンセントはビンセントのままでいいのよ”って……」

言葉を紡ぎながら、
ビンセントは昔へ戻っていく。

【ビンセントの回想】
広い宮殿の中庭。
幼いビンセントは、
人前で上手く話せず兄に罵倒され、
泣いて木陰に隠れた。

そこへ、ファティマがやって来て、
そっと膝をついて寄り添ってくる。
『ビンセント、泣かないで。
あなたは誰よりも優しい子よ。優しさは、弱さじゃないわ』

彼女は自分の外套をビンセントの肩に掛け、
小さく微笑んだ。
『私があなたの味方でいるわ。ずっとよ』

その瞬間、
幼いビンセントの胸に
「姉上への絶対的な信頼」が灯った。