「……これが、私の家族なのね……」
胸が締め付けられる。
だが、ファティマは立ち尽くすだけではなかった。
深く息を吸い込み、肩をまっすぐに伸ばす。

「皆様、お元気で……私は参ります」
自分に言い聞かせるように、
声を震わせながら口にした。

“帝国の誇りを、私自身の力で守るのだ”
そう決意した瞬間、
外の馬車の蹄の音が響き渡る。

侯国ドノヴァンの元へと運ばれる時が来たのだ。
小さい国ながら天然資源に恵まれた豊かな国。
きっと自分にもできることがあるはず。

しかし、
なんとか自分の気持ちに折り合いをつけ、
辺境の侯国に着いたファティマを待っていたのは、
想像を絶する現実だった。

城門をくぐるや否や、
迎えに出たのは、だらしなく太った中年の男――
ドノヴァン侯自身だった。

「おや、皇女様。ここがあなたの新しいお住まいですぞ」
にこやかに微笑む顔の奥で、
目は冷たく、利己的な計算が光る。

「……わたくしを、歓迎して……?」
ファティマは言葉を選び、
礼儀正しく問いかける。

しかし、返ってきたのは冷たい笑いと、
思いもよらぬ言葉だった。
「おっと、私はあまり興味ないな。若いのは好ましいが、そんな痩せた身体では……女はもっとボリュームがないと。だからまぁ、好きにしてくれ。……まずは家の手伝いでもしてもらおうか、皇女殿」