辺境に嫁いだ皇女は、海で真の愛を知る

市場では、
子どもたちがファティマに花冠を作り、
商人たちは「二人にぴったりのご馳走!」
と差し入れをしてくる。

デクランは慌てて、
「いや、これは……!」と戸惑うが、
国民の熱意には逆らえない。
仕方なく笑顔で受け取り、
手を取って子どもたちと歩く姿は、
まさに国民に愛される王子そのもの。

ファティマは密かに胸をときめかせる。
「もし本当にデクランの婚約者だったら……」
そんな妄想をしながらも、
自然に微笑む自分に少し罪悪感を覚えた。
(私は既婚者なのよ……)

そんなファティマの葛藤を知ってか知らずか、
広場の中央で行われる祝祭の席で、
デクランはさりげなくファティマの隣に座る。
手を取り、優しく笑いかけるその姿に、
ファティマの心は高鳴る。

「侯妃様、今日一日、楽しんでくださいね」
デクランの声は柔らかく、誠実で、
彼女を安心させる温かさがあった。

「ええ……あなたと一緒なら、楽しめそうだわ」
笑顔を返すファティマ。
周囲の国民たちが二人を取り囲み、
祝いの声を上げる中で、
二人の心の距離は、
一歩、また一歩と確実に近づいていく。