辺境に嫁いだ皇女は、海で真の愛を知る

笑い声と楽しい会話に囲まれ、
ファティマは心の奥で湧き上がる感情に気づく。
今までは決して味わえなかった、
けれど切望していた家族の温もり。
「これが……私の憧れだったんだ……」

胸にこみ上げる思いを抑えられず、
宴が終わり貴賓室に送られる道すがら、
ファティマは小さく口を開いた。

「デクラン。あなたの家族、本当に素敵な家族ね……羨ましいわ。私には決して手に入らないものだから」

そんなファティマのつぶやきに
デクランは歩みを止め、
複雑な表情でその言葉を受け止める。
目にわずかな影を落とし、
何か言いたげに口を開きかけるが――

ファティマは軽く微笑み、先に口を開く。
「明日のお祭り、楽しみにしてるわね」

その言葉を残し、
静かに部屋へと入っていく。
ドアの向こうに残ったデクランは、
深く息を吐き、
胸の奥に芽生えた、
抑えきれない感情を抱え込むのだった。