そしてその夜。
アズールティア王宮の大広間に、
柔らかな灯がともる。
晩餐の準備は整い、
香ばしい料理の香りと笑い声があふれていた。

ファティマは深呼吸をひとつ。
これまで何度も経験してきた
帝国の格式ばった晩餐とは違う――
ここには自然な笑顔と温かさがある。

「侯妃様、こちらへどうぞ」
王宮の従者に案内され、
大広間に足を踏み入れると、
デクランとその家族の姿が見えた。

陽気に笑う4人の姉たちは、
ファティマが席に着くなり、
早速お節介モード全開。
「ねえねえ、侯妃様!明日は何をしたいとかあります?」
「デクラン、早くお姉さんたちに紹介してよ!」

彼女たちの押しの強さに慌てるデクランは、
申し訳なさそうにファティマを見る。
「す、すみません……姉たちがつい……」
ファティマはその様子を見て、
思わず微笑んだ。

王と王妃は、
そんな子どもたちを穏やかに見守りつつ、
ファティマにも自然に声をかける。
「侯妃様、ようこそアズールティアへ。楽しんでいってください」
その温かさに、
ファティマの胸はじんわりと満たされた。