辺境に嫁いだ皇女は、海で真の愛を知る

祝宴が終わり、
月明かりが静かに降りそそぐ
アズールティア王宮。
新郎新婦用に整えられた部屋には、
海の香りを含んだ夜風が
優しく流れ込んでいた。

ファティマは海色の薄衣のまま、
胸の鼓動を抑えられずに視線を落とす。

デクランがそっと近づき、
微笑んだ。

「緊張してるの?」
「……ええ。あのね、私。恥ずかしいことを言わなくちゃいけないの。」

ファティマは唇を噛み、
勇気を振り絞って言った。

「私……結婚していたのに、その……誰とも、そんな……経験がなくて……」
声が消える。
頬は涙のように赤く染まっていた。

デクランは一瞬だけ目を見開いたが、
すぐに優しい笑みに変わった。

「……そうか。」
そして彼は、
ファティマの手を包み込みながら、
低く穏やかな声で言った。

「ドノヴァン侯は憎いし、ファティマへの仕打ちを許すつもりもない。でも……一つだけ、感謝していることがあるんだよ。」

ファティマが顔を上げる。
デクランの青い瞳が
まっすぐに彼女を見つめていた。

「僕の、大切なファティマに一切触れなかったこと。
それだけは、本当に……感謝してる。僕だけのファティマ。こんなに嬉しいことはないよ。」

心臓が痛いほど跳ねた。
ファティマの呼吸がふっと乱れ、
胸の奥が熱くなる。