辺境に嫁いだ皇女は、海で真の愛を知る

クレオールが孤独を深め、
焦燥を募らせていく一方で、
ビンセントは休むまもなく動き続けていた。

姉ラジワの嫁ぎ先、
ソラリス王国と極秘裏に調整しながら、
彼は密かに帝国内を巡る。

辺境の村では農民たちと土を踏みしめ、
商業都市では商人ギルドの長と膝を突き合わせる。
そして帝都近郊では、
古くから皇室を支えてきた貴族家にも
頭を下げに行った。

誰もが驚いた。
「皇子殿下が……我々のためにここまで?」
「クレオール陛下とは、まるで違う……」

ビンセントは「皇位を奪う」ためではなく、
帝国の未来を守るために行動している──
そう確信した国民と貴族たちは、
自然と彼を支持するようになった。

ビンセント支持派が増えるにつれ、
活気を失っていく宮廷。
城内は静かだった。

いや、静かすぎた。

いつもなら控えているはずの家臣たちの影が薄い。
声をかければ返事をする者もいるが……
皆、どこか目を合わせない。

ついに、
現実がクレオールの胸に突き刺さる。
「……皆、俺から離れたのか?」

彼の頭を占めるのは恐怖と、
帝位への執着だった。

「ビンセントさえいなければ……!」
その思考は、
もはや狂気へと堕していた。

追い詰められたクレオールは
最悪の選択、
すなわちビンセント暗殺計画を思い至る。

クレオールは密偵を呼び寄せ、
短く命じた。
「……ビンセントを消せ」

弟さえいなければ。
それだけで帝国は元に戻る。
そう信じて疑わなかった。