そして彼の元から去ったのは
マチルダだけではない。

家臣たちは一斉に辞表を置き、
城を去っていた。
「ファティマ様がいないなら、ここに残る意味はない」
と言い残して。

残ったのは、
足の踏み場もないほど山積みになった未決裁書類。
期限の迫った借金の通知。
かつて侯国を潤してくれていた天然資源も、
無計画な開発ですっかり枯れ果ててしまったていた。

ファティマが整えていた全てが、
彼女がいなくなった瞬間から崩れ始め、
その崩壊はもう止めようがなかった。

城の広い執務室で、
ドノヴァン侯はただひとり、
崩れ落ちるように椅子に座り込んだ。

誰も助けない。
誰も傍に立たない。
彼の周りにあるのは、
失われた信用と、
山のような失敗の証拠だけ。

全てを他人に押し付けてきた男の、
あまりにも哀れな末路だった。