ドノヴァン侯の問いかけにまるで答えないマチルダ。
彼女の顔を見上げると、
彼女はふん、と鼻で笑い、
冷たい目でドノヴァン侯を見下ろしていた。

「何もしなくていいって言ったわよね?
全部ファティマがやってくれるからって。
なのになによ、話が違うじゃない。
私に面倒事を押し付けようったって、そうはいかないからね。贅沢させてくれないなら、こんな豚と一緒にいられるわけないでしょ。」

そして最後にこう吐き捨てた。
「せいぜい、その汚い城で書類と借金に埋もれて死んだら?」

マチルダはドノヴァン侯に貢がせた
宝石やドレスをあるだけかき集めると
侍女たちを伴って風のような早さで
城を出ていった。
その背中を止める者は誰もいなかった。

今まで少女のように笑い、
ドノヴァン侯に愛を囁いてきたマチルダ。
しかしそれはただの仮面にすぎず、
望むものをくれない憐れな男に
寄り添ってくれる聖女ではなかったのだ。