辺境に嫁いだ皇女は、海で真の愛を知る

二人はさらに歩を進めていく。
潮の香りがふんわりと漂う
午前の魚市場。

船の帆がはためき、
威勢のいい声が飛び交う中、
デクランはファティマの手を優しく握ったまま、
人混みの間をゆっくり歩いていた。

ファティマの頬にはまだ薄く跡が残っている。
しかし、それを包み込むデクランの眼差しは
いつになく柔らかく、深く、
ただ彼女だけを見ていた。

そんなほっこりした雰囲気の中、
“空気読めない男”として名高い大将が、
魚箱を抱えながらにやりと笑って
声を張り上げる。

「おーい、お二人さん、熱々だねぇ!!もしかして、ついに良い仲になったのかい!?」

以前のデクランは
「ち、違います!」「誤解です!」と
真っ赤になって否定していた。

だが今日は違う。

デクランは一度だけファティマを見つめ、
彼女の指をそっと絡め返すと――

堂々と微笑み、胸を張って言った。

「そうだよ。
 彼女は……僕の大切な人だ。
 そして僕には、もったいないくらいの女性なんだ。」