船が港を離れると、
ファティマはふと自分の胸に手を当てた。
侯国での孤独、冷たい夫の存在、
重圧に押し潰されそうになった日々。

しかし今は――
彼女の心を理解し、
守ろうとしてくれる人が隣にいる。
その存在がまるで光のように、
暗闇に差し込む。

二人の距離は、わずか数歩で縮まった。
だが心の距離は、さらに近く――
これから訪れる海の国でのお祭りに
ファティマは胸をときめかせながら、
デクランと2人、潮風にあたっていた。