辺境に嫁いだ皇女は、海で真の愛を知る

離宮での穏やかな日々。
しかし、ファティマの胸には
ずっと一つの思いがあった。
——いつまでも、甘えてはいけない。

デクランが、
ビンセントが、
オルランドとフィロメナが、
エドリックとエレオノールが……

多くの人が命懸けで
自分に手を伸ばしてくれた。
だからこそ、
ファティマは前に進まなければならない。

ある午前、
ファティマは一人で
エドリックの私室を訪れた。

侍従が戸を開けると、
エドリックは文書を読んでいたが、
彼女を見るとすぐに椅子から立ち上がる。

「ファティマ殿。顔色は良さそうだな……安心した。離宮で不自由なことはないだろうか?」

「はい、エドリック陛下。おかげさまで、心安く過ごせています。そして今日は……お話ししたいことがあって参りました。」

エドリックは心得たようにうなずき、
手ずからファティマを席へと案内する。

「陛下……私は、これからどうすべきか、ずっと考えていました。」
ファティマの声は震えていた。
それでも目だけはまっすぐだった。

「ドノヴァン侯国に戻るべきか……
 ドラゴニア帝国と縁を切る道を選ぶべきか。
 私は……」

魔女裁判のような結婚。
軟禁。
人としての尊厳を奪われた日々。

「私は皇女として生まれ、帝国のために生きるよう育てられました。なので自分の人生を……どう選ぶべきなのか分からないのです。」

その告白は、
勇気そのものだった。
今まで信じてきた生き方と
違う生き方を選ぶことの迷いを
正直に吐露しているのだから。