---照明は基本的に暗く、点々と電球が各テーブルをほんわりと光を照らす。店内には1組のカップルだけが滞在しており、食事が終わりゆったりと時を過ごしている。

私はドリンクが3割以下になっていないか、また不要な物がないか時々客席に視線を向け、チェックをする。お客さんが来店されて最初はドリンクのスピードが速かったり、食事を出す場合があるので多少バタバタしてしまうが、全て終わりそろそろお会計になるだろう。大体は女性がトイレに行ったタイミングで男性がお会計を出すように言ってくる。こちらとしては、いかに女性が卓に戻るまでにスムーズにお会計をするのかが重要になる。

「菜穂さん!」

私がいるカウンターに入ってきたのは半年前くらいに働き始めた飯島 未来。同い年で、彼女はフリーターなので社員ではないがほぼ毎日このバーに出勤している。1年以上働いている私よりも様々な事を学び、むしろ私が彼女を頼ってしまったりしている。眉毛上のぱっつん前髪に、腰まである黒髪ロング。透き通るような雪みたいな真っ白な肌。全てが羨ましくて、最近ではダイエットの仕方やおすすめの化粧品など聞いている。

「どうしたの、飯島。」
私はファイバータオルで吹いていたバーボンウイスキーを棚に戻し、飯島に体を向ける。
「私たち21時上がりらしいです!で、もしよかったら今日飲みにいきませんかっ?」
最近バーの店長が変わり、客がいない日はよく早上がりさせられる時が多い。稼ぎたい私にとってはいい迷惑で。
「まーた早上がりなの。どこ飲み行くの?」
「うーん、どこだろう。菜穂さんCENTURY行ったことありますよね!」

---CENTURY、あんまり聞きたくない言葉だった。
去年ある事件をきっかけによく頻繁に訪れていたお店だったが、もう半年以上行っていない。

「あるけど…、もう半年以上行ってないかな。」
「えー!じゃあ行きましょうよ!今日私が奢ります!」
目をキラキラさせて話す飯島を見て、私は頷くことしかできなかった。飯島は「やった!」とこれ以上にない笑顔を私に向け、丁寧に結ばれたポニーテールを揺らしながらホールに出ていった。

CENTURYはこのバイト先から徒歩5分もしない近場にあるカラオケバーでよくこの店に来るお客さんでもCENTURYに通っているお客さんが多い。もちろん、飯島含めたバイトスタッフたちも最近退勤後CENTURYに行ってるのはSNSで見ていた。私は前はこのお店の近所に住んでいたのだが、今年の冬に引っ越しをして、終電ギリギリまで働いて飲みに行くことなく直帰していたから、なおさらCENTURYに行くことはなかった。
最後に行ったのは去年の12月。そこから私は行かなくなった。---あの人のせいで。