スマホはリビングに置いたまま。
警察が男を周囲で見かけるようになったらすぐに連絡入れるように言われていたのに油断してしまった。
「君さ、さっきの男は何? 盗聴器壊しちゃったでしょ?」
盗聴器?
もしかして、さっき美柑の彼氏が壊してたのって……。
「まあいいや。じゃーさ、まずお互い自己紹介からしようよ?」
首筋の刃物が少しだけ押された。痛みが少しだけある。もしかしたらちょっと切れたもしれない……。
「よかろう。自己紹介してやろうではないか」
「――っ⁉ お前、さっきの」
玄関にいつの間にか美柑の彼氏が立っていた。
「我の名は我壱鳴雄。世界中の人間に愛でられる存在になる男だカッコ予定」
「おっお前さ。今、取り込んでんのわかんない? お腹にブスっとイッちゃうよ?」
「ほう、おもしろい。我の高速反復横跳びの動きについてこられるとでも?」
相変わらず訳わからんことを口走っている。
事情を察して、ストーカー男に気づかれる前に警察に電話してくれたら良かったものの……。
「俺、冗談言わないんだよ、ね!」
「ほう、我も冗談では……ないのだが?」
ストーカー男が刃物を両手で持って、美柑の彼氏に突撃する。だけど、なんかとんでもない変態的な動きでストーカー男のまわりをぐるぐる回ったかと思えば、あっと言う間にロープで男を縛って動けなくしていた。
「あなたは……いったい?」
「お姉ちゃん、大丈夫。さっき警察呼んだから」
妹の美柑が心配そうに家の中に入ってきた。
美柑の彼氏が時間を稼いでいる間に連絡していたとは、なかなか捨てたもんじゃない。
「さて、デカい虫も潰したから、そろそろ普及活動……商店街の下僕たちの手伝いに戻るとするか」
どこまで本気なのかわからない人。
開けっ放しの玄関から警察が入ってきたのと入れ違いで帰っていった我壱鳴雄。
「ねえ、美柑。本当にあの人、あなたの彼氏なの?」
「あれ? お姉ちゃん、もしかして『キュン』しちゃった?」
「さあね? でも――」
ひとつ言えるのは、美柑の言う“信仰の対象”って言葉が、冗談に聞こえないくらいには考えさせられちゃったってこと、かな。



