各務課長が「君の時間を十分ください」と言った結果

 課長がふと顔を横に向けた。つられてそちらを見る。なかよく並んだふたつのベッドが目に飛び込んできた。

「さすがにここにこれ以上ふたりきりは……ね?」

 意味ありげな微笑みに、全身がカーッと熱くなった。

「さっ、さあ行きましょう!」

 勢いよく立ち上がったら、クツクツと忍び笑いが聞こえてきた。見なくても彼が肩を震わせて笑っているのがわかる。

「今日は約束もしたし、安全を保障するよ」

 たしかに、課長に限ってそんな見境のない行動をするはずがない。ほっと胸をなで下ろしたら、彼がわざと私が動揺するような言い方をしたのだと気づく。

 もしかしたら各務課長って案外いじわるなの……?

 ちらりと横目に見ると、向こうも私を見ていたらしく目が合った。ふわっと微笑まれて心臓が跳ねる。

「だけどこれ以降は、実花子の時間を最大限もらいたい」

 最大限?

 首をかしげた瞬間、視界が陰って、唇にふわりとなにかが触れた。

 唇に残るかすかな熱。

 その正体がなんなのか、わかるはずなのに言葉が浮かばない。頭が真っ白になって、両目を見開いたまま立ち尽くす。

「たったの十分じゃ五年分の想いはとても伝えきれないからね。これから先、君の時間を〝十分に〟もらって、俺の愛を注がせてもらうから覚悟して」

 課長は大輪の花がほころんだようにきれいな笑みを浮かべた。



 おわり