各務課長が「君の時間を十分ください」と言った結果

「君がなにを考えているのかなんとなくわかるな。でもあの日あのカフェで偶然君を見つけたとき、これは神様がくれたチャンスだと思った。今度こそ迷わず全力で口説かせてもらうからそのつもりで」

 真っすぐな視線がテーブル越しに私を貫いた。彼の本気が伝わってくる。

 私も逃げずに向き合わないと……。

 膝の上で重ねている手をギュッと握りしめ口を開く。

「恋人と別れたばかりで別の男性の告白に惹かれるなんて、軽薄な女だと軽蔑しませんか?」
「なぜ。俺がそれを望んでいるのに? むしろ仕事の早い自分を全力で褒めたいくらいだけど」

 彼はフッと笑う。

「俺にそう思われるのは嫌?」
「……嫌です」
「どうして? 俺のことをどう思っている?」

 ストレートな質問に心臓が早鐘を打ち始める。覚悟を決めて口を開く。

「私は……各務課長が好き……なので」

 目を見張った彼に「多分五年前から」と付け足した。

 課長はおもむろに立ち上がると、私の前までやってきて片膝をついた。目線が同じ高さになり、心臓が大きく跳ねる。

「それは告白の返事だと思ってもいいのか?」

 切れ長の瞳に見つめられて、私はこくんと首を縦に振った。
 彼の大きな両手が、膝の上で握りしめていた私の手をそっとすくい取った。

「ありがとう。これからよろしくな」
「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」

 私がぺこりとお辞儀をした次の瞬間、グイっと手を引かれる。

「きゃっ」

 バランスを崩して彼の胸に飛び込むようにして抱きしめられた。