各務課長が「君の時間を十分ください」と言った結果

「で、でもっ……特別な状況下だったせいで、緊張を恋と勘違いしたんじゃありませんか? 緊張感から吊り橋効果が発生して」
「特別な状況下? ……ああ、園田嬢の。あれは気のせいでした」
「はい?」

 気の抜けた声を出した私に彼は飄々とした口調で続ける。

「園田嬢はついて来ていないようでした。最初は本当に見られていた気がしたんですが、後は君がかわいくてつい」
「つい⁉」

 じゃあなに? 途中から課長のお芝居だったの⁉ まさか各務課長が、腹黒い策士のような行いをするなんて……。

 衝撃のあまり開いた口が塞がらない。

「そもそも吊り橋効果なんてありえません。だって俺は五年前から君が好きだったんですから」
「う……そ」

 五年前って、OJTの頃?

「嘘じゃありません。指導担当として君と接するうちに、何事にもひたむきに努力する君が気になるようになりました。でも、当時君には恋人がいましたよね」

 どうしてそれを、と目をしばたたく。
 たしかに入社当初、私は大学時代から付き合っていた同級生と遠距離恋愛をしていた。けれど彼にその話をした記憶はない。

 すると課長は、新人のうわさ話は教育担当の耳にいくらでも届くのだと言った。