「佐伯さんが怖がっています」
「各務課長には関係ないじゃないっすか。たとえ上司でもプライベートに首突っ込んで来ないでくださいよ」
「たとえプライベートであろうと、女性に無理強いするのを見て見ぬふりはできません」

 毅然と言い放った課長に、慎士がムッと不機嫌な顔をした。慎士が何か言い返そうと口を開きかけたが、課長のほうが早い。

「そういえば牧村くん、秘書課の相田さんとの待ち合わせはいいんですか?」
「は⁉……なんで」
「今朝休憩スペースで言っていましたよね? 今日は相田さんと食事に行くから定時で帰るって」

 慎士が急に焦った顔になる。

「そ、それはなしに――」
「そうでしたか。そういえば相田さんが同僚に『しつこく誘われて土曜に会ったけど、やっぱり付き合うのはやめる』と話していましたね。あれは牧村くんとの話だったんですね」

 一瞬で慎士の顔が真っ赤になった。それを見て、私は土曜日からの全部がすべて繋がった気がした。

 慎士は相田さんに気があって、彼女へのアプローチがうまくいきそうになったから私を振った。けれど結局うまくいかなかったせいで、私とよりを戻そうとした。

 そう考えた瞬間、最初に湧いた感情は、怒りではなくむなしさだった。