「ごめんなさい」と切りだすと、慎士が眉間のしわを緩める。

「わかったなら――」
「あなたとはやり直せない」

 きっぱりと言いきった。

「あなたが望むようなかわいい女にはなれないし、あなたの言動にもついて行けない。このまま別れた方がお互いのためだわ」

 慎士から電話であんなふうに別れを告げられたのはショックだったけれど、その時点で私の中では完全に終止符が打たれた。
 前の遠距離恋愛のときも同じような感じだったから、意外と自分は別れを引きずらないタイプだと思っていた。

 けれど思い返せば、課長が海外に赴任したときは、自分でも驚くほど落ち込んだ。それは社会に出て右も左もわからない時期に一から育ててくれた頼れる先輩がいなくなった心細さ――刷り込み現象のようなものだと思っていた。
 そこから指導担当である彼の名を汚すわけにはいかないと思い直し、仕事に励むようになった。仕事に打ち込んでいる間は胸の痛みを忘れられたのも、仕事に熱中した原因だった気がする。

 私、やっぱり各務課長のことを……。

 慎士との話で、自分がいかに鈍感だったかを再認識した。

「おまえ……ほかに男ができたのか⁉」
「そんなわけ……」

 完全に否定しきれなかった。今の私の気持ちがすでに慎士以外の男性に向いているからだ。あいまいに言葉を濁したせいで、慎士が目の色を変える。

「そうなんだな! どいつだっ、俺の知っているやつか⁉」

 慎士がこちらに向かって手を延ばす。反射的に目をギュッと閉じた。

「やめなさい」

 聞こえた声に恐る恐る目を開けると、目の前にスラリとした背中があった。