「各務(かがみ) ……課長?」

 サラリとした黒い前髪のかかった二重まぶたがいつになく険しく見える。どこか切羽詰まった表情のその人は、各務尊(たける)――企画部の課長で私の上司だ。

 切れ長の涼やかな目や高い鼻梁、薄い唇がほっそりとした輪郭の中に完璧に配置されている。その上、百八十五センチに長い手足というモデルばりの体形で、この人を〝イケメン〟と言わずして誰を言うのかというほど整った容姿だ。

 そんな彼は、私が入社したばかりの『OJT(オージェ―ティー)研修』と呼ばれる職場内訓練で、私のトレーナーについてくれた先輩でもあった。

 まぶしいくらいの容姿にもかかわらず、課長はほとんど感情を表に出さない。研修開始当初はなにを考えているのかわからない彼を、私は苦手に感じていた。

 けれど私が何度質問しても彼は嫌な顔ひとつせず、常に根気強く丁寧に指導してくれた。
 おかげでOJT研修が始まって二週間経つ頃には、彼に完全なる信頼を持つようになった。
 三ヶ月の研修の最後に行われる新入社員の社内コンペで社長賞をもらうこともでき、彼がとても喜んでくれたのは、今でもいい思い出になっている。

 そんな各務課長は、私のOJT研修が終わると同時に海外支部へと異動になった。そして五年の歳月を経て、ひと月前に本社に戻ってきた。三十歳、史上最年少課長の誕生だった。
 整った容姿の上に将来有望のエリート社員ともなれば、社内の女性達の人気を一気にさらったのもうなずける。