「意外です」
「そうか? 俺からしてみたら、仕事が早くてなんでもそつなくこなす君が、〝料理が苦手〟という方が意外だけどな」
「あ、ありがとうございます」

 仕事ぶりを褒めてもらえるとは思わず、顔がにやけそうになる。反対側を向いて表情を整えている私の横で、課長が他のおかずもパクパクと口に運ぶ。

「うん、やっぱりどれもおいしい! 全然下手じゃないじゃないか」

 胸とまぶたがジンと熱くなった。
 こんなふうに自分の作った料理を喜んでもらえたのは、いつぶりだろう。少なくとも慎士からはなかった。
 料理がド下手だと言われて振られたばかりの私にとって、彼のセリフはなによりの慰めだ。できたばかりの傷にスッと軟膏を塗られたかのように、胸の痛みがやわらぐ。

「お口にあってよかったです」

 涙で目が潤まないよう二、三度まばたきをした後、極力明るい声を出した。

「実香子」

 突然名前を呼ばれた。真剣な表情で顔をのぞき込まれ、心臓が跳ねる。

 目が赤いのに気づかれたとか……。

 どう言ってごまかそうかと頭の中で必死に考えているうち、端整な顔がどんどん近づいてきた。

 えっ……。

 息を詰めたと同時に、彼が耳の横で口を開く。

「どこからか視線を感じないか?」

 思いも寄らない台詞に、両目を見開いた。

 やっぱりまだ園田さんが見張っているの⁉

 すごい執着心だとそら恐ろしくなる。