公園を真っすぐ突っ切ると、小高い場所にベンチがあった。私達はそこに並んで腰を下ろした。

 数百メートル先に海が見え、頭上には澄んだ青い空が頭上に広がっている。
 潮の香りが混じる乾いた空気を胸に吸い込んだ。

 思った通りだわ。

 この公園ならテーマパークのように人がごった返しておらず、何時間も待たされる心配もない。小さな水族館やバードウォッチングのできるエリアもあるので、退屈はしない。
 デートにしては地味かもしれないけれど、仕事の疲れを癒しながら恋人とのんびり過ごすにはもってこいだと思っていた。

 だからここをデート場所に選んだのに、まさか上司と手を繋いで歩く事態になるなんて思ってもみなかった。

 たった十分の出来事が、こんな未来を連れてくるなんて――。

「さっそくだけど、これ、今ここで食べてもいい?」
「えっ」

 もう食べるの⁉

 課長の恋人の振りに必死で、まだ心の準備ができていない。

「だめかな?」

 おねだりするように小首をかしげて顔をのぞき込まれ、うっと言葉に詰まった。
 ここで『だめだ』と言っても無駄な気がする。それに手作り弁当なので衛生面的にもできるだけ早く食べてしまった方がいい。

「下手くそなのを笑わないと約束していただけるなら」

 渋々了承すると、課長は「もちろん」と真剣な顔つきで答えた。

 保冷バッグから取り出した弁当箱のふたを課長が開ける。開けた瞬間中身が完璧なものに変わっていてほしかったけれど、そんなミラクルが起こるはずはない。

 おにぎりは三角とも丸ともつかないいびつな形で、卵焼きは焦げている。ピーマンの肉詰めを作ったつもりなのに、ピーマンと肉が別々になっている。ウィンナーに至っては、タコ形の足部分がちぎれて原型をとどめていない。

「おいしそうだな」
「気を使ってくださらなくても大丈夫です」

 あからさまなお世辞はかえってむなしくなるだけだ。できるだけ感情を表に出さずに言うと、課長は隣で肩を揺らしてクツクツと笑う。