課長が私を連れていったのは、もともと私が慎士と行く予定にしていた海浜公園だった。
 公園は駅のすぐ目の前なので、適当に歩きながら時間を稼ぐにはちょうどいい。

 行楽日和の土曜日。公園は親子連れやカップルなど多くの人でにぎわっている。けれど野外で開放的なせいか混雑感はない。

 途中何度か園田嬢が後をつけてきているのか気になって振り返りかけたけれど、そのたびに繋いでいる手がキュッと締まる。絡めた指同士が密着する感触に、心臓が飛び出しそうになった。斜め下からじっとりとした視線を送ったけれど、微笑みが返ってくるだけで効果がない。

「俺達が気づいていると知られたら、振出しに戻ってしまうから」

 課長は声をひそめたまま話しを続ける。園田嬢は、私が恋人の振りをしていると疑っているのだろう。私達が本物の恋人だと納得すれば、今度こそ諦めてくれるに違いない――と。

「そうですよね……」

 たしかに私は、訳がわからないうちに同席させられたせいで、まったく恋人らしい振る舞いはできなかった。
 私のようなかわいさの欠片もない女が、完璧な彼の恋人だと言われても納得できないのも当然だ。

 自分の演技力ととっさの対応力の欠乏が情けない。そのせいで課長に余計な手間をかけさせてしまっているのだと、申し訳なく思えてくる。