ようこそ。まったく新しいSNS、安心安全のMANDARAです。

 図書室――。
 ちらりと見えた画面には、SNS『マンダラ』のたくさんのポストたちが川の流れのように、するすると通り過ぎていく。
いまや、世界中の人びとが、マンダラを利用している。
 わたしが通っている十六夜中学の、2年4組は、ほとんどのクラスメイトたちが相互フォローになっているらしい。
 スマホを持っていない人も、親のSNSで繋がっていたりしているとか。
「伏見ちゃーん」
 小声で、わたしの名前を呼んだのは、同じクラスの東山くんだ。
 前髪が異常に長いので、目元がよく見えない。
 すっきりと通る声に、笑顔はとてもさわやか。
 前髪をどうにかすれば、たぶん、いわゆるイケメンというやつなんだと思う。
「さすが、本好きだね。やっぱりここにいた」
「別に、いつもここにいるというわけではありません」
「へえ。ほんとうに?」
 ニコっとほほ笑む東山くんは、スマホでマンダラのアプリを開いた。
 手慣れたようすで、水族館で撮ったイルカがアイコンになっている、アカウントを見せてくる。
『イルカ@読書アカウント』というユーザーネーム。
 わたしのアカウントだ。
「きょうの読了ポスト、見たよ。『パルテノンの林檎』いい本だよね」
「東山くんはあいかわらず、しっかりとマンダラを見ているようですね」
「ぼくの趣味さ。インターネットはね」
「伏見ちゃんのフォロワー、いまだにぼくと栄くんしかいないね」
「わたしは、鍵アカウントですから。おふたり以外だれも見ることはないですよ」
「せっかく読書の感想書いても、ぼくたちしか見ないなんて、もったいないんじゃない?」
「いいんです。感想を見てもらうために、本を読むわけではないですし」
「……そっか。伏見ちゃんがいいなら、いいんだ。栄くん、今夜も『箱舟』だって。伏見ちゃんも来る?」
「そうですね。いまだに、レアアイテムをゲットできていないですから」
「レアアイテムって、タイマツ? いまのイベントに必要だもんね」
「ええ。SNSで『箱舟』の情報を調べてるんですけど、よくわからなくて……」
「タイマツなら、火山にある」
 栄くんがわたしたちの後ろの棚で、スマホを見ていた。
 整った顔立ちに、涼し気な表情。
 ゲームをするために、限界まで深爪にしている指先は、黒のネイルが塗られている。
 栄くんいわく「爪が生まれつき薄いから。割れないようにネイルしてんの」といっていた。
 栄くん、いつのまに図書室に来ていたんだろう。
 わたしが東山くんと栄くん、ふたりとはじめて会話をしたのも、図書室だった。
 あのときも、わたしがイベントアイテムをうまく回収できなくて、悩んでいるときだったと思う。
 だからつい、図書室で『箱舟』の話をしているふたりの会話に、参加してしまった。
『そ……その、イベントアイテム! どこにあるんですか?』
 すると、東山くんがふわっと笑って、
『今夜「箱舟」においで。みんなで回収すれば、一気に集まるさ』
 ……と、誘ってくれた。
 それから、わたしたちはなんとなく『箱舟』に集まるようになった。
 わたしたち3人は、同じクラス。しかし教室では、ほとんど話すことはなかった。
 しかし、オンライン上では、とたんにおしゃべりになって、たくさんのことを話した。
 教室での時間はなくても、よかった。
 ふたりとする箱舟は、とても楽しかったから。

 ■

「なーあ。鳥尾、オレのマンダラ、フォローしてー」
「オッケー。森田もついにはじめたんだ。マンダラ」
 朝の教室。
 授業がはじまる前、隣の席の森田くんと鳥尾くんが、おしゃべりをはじめた。
「そ。親にようやくスマホ買ってもらえたわ。これで、推しのSNSが見れる~。オレの時代きた~っ」
 テンションマックスの森田くんがパッと顔をあげて、わたしのほうを見た。
「そういえば伏見さんって、けっこう早くにスマホ持ってたよね。小4くらいから持ってるっていってなかったっけ~? そんときから、SNSやってんの?」
 森田くんとは、同じ小学校だった。
 むかしのわたしのことを彼は、よく知っている。
 いつもなら、わたしのことなんてスルーしているふたりなのに、きょうはスマホのことで機嫌がいいのか、めずらしく話しかけられてしまった。
 極力、コミュニケーションをはぶきたいわたしは、つい素っ気なく返事をしてしまう。
「小学生はSNSを使えませんよ。防犯のために持たせてくれただけです……」
「そうだったっけ。伏見さんってさ、小学校んとき図書室の本、全制覇してたじゃん」
「うっそ。まじ?」
 鳥尾くんの話に森田くんが、興味しんしんになって、机から身を乗り出している。
 たしかに、わたしは小学校のとき、図書室に入り浸りだった。
「伝説になってるんだよ。伏見さんは、ガチの本好きだって」
「いえ……それは……」
 ちがう。さすがに、全制覇はしていない。
 全制覇したのは、小説や、児童書、絵本だけなのに。
「だからさ、伏見さんなら、スマホでも本読んでそうだなって思って。電子書籍っていうんだっけ?」
「いえ、スマホでは読んでません」
「じゃあ、スマホでなにしてんの? まさか伏見さんが……ゲームとか? あはは」
「わたしがゲームって、おかしいですか?」
「本好きなのに、ゲーマーって、なんていうか……ギャップ? ちょっと、イメージとちがうってかんじかなー」
「……スマホゲームは、してないですね」
「じゃあ、やっぱり――マンダラ?」
 そのとき、ガラッと教室のドアが開いた。
 とたん、教室中がざわつく。
 教壇にあがったのは、担任の先生じゃなかった。
 ヘンなゆるキャラみたいな生き物だ。
 丸っこいおばけのような見た目、黒豆のような目、猫のような口もと。
 ぬいぐるみかと思ったけど、なんだかおかしい。
 ふわふわと宙に浮いているのに、釣り糸のようなトリックは見えなくて。
 3Ⅾ映像か何かかとも思うけど、それっぽい機材のようなものも見えない。
 森田くんが、「ぶはっ」とふき出して、おばけに近づいた。
「何こいつ。どういう仕掛け? Ⅴチューバーかなにか~?」
 おばけをつんつんと、つつき出す。
 すると、おばけのからだに、森田くんの指が、むに、と沈む。
 その感触に、森田くんの肩が、ぶるっと震えた。
 まさか、ほんとうに触れるとは、みじんも思っていなかったらしい。
 それは、他のクラスメイトである、わたしたちも同じだった。
 森田くんが、おばけに触った瞬間、一気に教室が騒々しくなる。
「――静粛にしましょーっ!」
 おばけの、金管楽器のような声が、パーンッと響いた。
 しーんと静まりかえる教室を、おばけがぐるりと見渡す。
「先生はどうしたの……?」
「なんなんだ、あいつ。ホログラムとかじゃないの?」
 ふたたび騒がしくなる教室に、テンプラがおばけのからだを真っ赤にさせ、叫んだ。
「SNSは悪である。SNSを使用している子どもを選別し、選ばれたものは現世管理委員会にて、魂からやり直させよ――との、あの世からのお達しがありました。そこで、このクラスで『マンダラゲーム』を開催することになりました! パチパチパチ~!」
 とたん、教室内は爆発でもしたかのように、騒々しくなった。
「これは、決定事項でーす! 逃げられませんよ」
 テンプラがゴホンッと咳ばらいをする。
「さて、ではいよいよ『マンダラゲーム』のルール発表です。
① いいバズりをすること。
② わるいバズりをしないこと。
 これだけで~す。……では、さっそくこちらのポストをごらんくださいっ」
 テンプラは、自分のスマホでを操作すると、空中にとあるアカウントのポストを映し出した。
 ユーザーネーム、『白粥早弓』。
 それを見て、うちのクラスの白粥早弓さんが、息を飲むのが聞こえた。
 白粥さんのポストには、こう書かれている。
『ちょっと聞いて! ガチで虹のふもと見つけたかもしれない! ここから、虹が生えてた! しかもだよ、近くを見に行ったらさ、1万円落ちてた!!! みんな、虹が出たら、ふもと探したほうがいいよ!!! 笑えるくらい、お得!!!』
 ポストの文章には、画像が2枚、添付されている。
 自然がいっぱいの公園のなか、草木のあいだに、虹のはしっこが映っている1枚目。
 2枚目は、今まさに1万円札を拾ったばかり、といった画像。
 いいねは、1万いいね。リポストは、8000くらいされている。
 いわゆる、バズっているポストだ。
 テンプラは、心底つまらなさそうに口をへの字にした。
「このポストが、現世管理委員会の会議で問題にあげられた。それがきっかけで、この十六夜中学校2年4組が今回の『マンダラゲーム』の舞台に選ばれたんですよ」
「……え?」
 白粥さんが、引きつった顔を見せる。
「つまり、さゆのポストが原因で、いまこんなことになってるってこと?」
 戸倉さんが、苛立ったようにいう。
「ちょ、ちょっと。あたしのポスト、なんか問題だっての?」
 白粥さんがいうと、テンプラは乾いた声で笑った。
「このポストには、嘘がありまーす。あなた~これ、話を盛っているでしょう。1万円なんて落ちてるわけないじゃないですか。自分の財布から抜いて、写真を撮っただけでしょ」
「はあ? 証拠でもあんのっ?」
「いったでしょう――あの世で見てますからね~? 現世管理委員会が」
 テンプラが、スマホをタップする。
 空中の画面に、1枚の画像が映し出された。
 それは、白粥さんが虹のふもとで、財布から1万円を出しているところだった。
 こんな画像を誰が撮ったというのか。
「現世管理委員会は、現世を管理する委員会」
 テンプラが、厳かにいう。
「嘘は悪です。白粥さん。あなたは、わるいSNSの使い方をしていますね。マンダラゲームの――ルール違反です」
「は? え……?」
「魂、回収させていただきま~す。あの世から、やり直しましょう!」
 テンプラが、薄い1冊の本を取り出した。
 チラッと見えたなかには、ずらずらと何かが書かれている。
「これは、カルテでーす。白粥早弓さんが生まれて今日までの、これまでの行いが書かれていまーす」
 場の空気にあわない明るさで、テンプラは説明してくる。
「最後のページに、名前の記入欄があります。現世管理委員会委員長である、わたくしが『白粥さんの名前』を記入します。これで、あなたの魂を回収することができます」
「……な、なんで? なんで、あたしだけ?」
「白粥さん。あなたが現在進行形で、間違ったSNSの使いかたをしていることが、発覚したからですよ~。このマンダラゲームは、自分がもっとも正しくSNSを使えるということを証明してくださればいいだけのゲームなんですよ。簡単でしょ」
 おばけは、カルテの記入欄に『白粥早弓』と書いた。
「――止めっ」
 白粥さんは、言葉をいい終えることなく、教室の床にばったりと倒れてしまった。
 周りにいた数人は、言葉もなく、その場に座りこんでしまう。
 ほんとうに倒れてしまった白粥さんに、いよいよクラスメイトたちも、わたしも、顔面蒼白の表情になっていた。
「はい。では、あの世へ搬送~」
 白粥さんのからだは、テンプラの合図とともに、霧のように消えてしまった。
 うそ……ほんとうにあの世へ、行ってしまったの……?
 白粥さんとは、ほとんどしゃべったことはなかったし、これからも関わることはないんだと思っていた。
 わたしは、自分の席に戻り、通学リュックからスマホを取り出した。
 マンダラを開いて、『白粥早弓』と検索する。
 彼女のバズっているポストには、ほとんどのアカウントから「すごい」だとか「虹が運んでくれたんですね」というメッセージが届いていた。
 一部からは、「そんなことあるわけない」とか「嘘つき」という心ない言葉もきていた。
 けれど、これほどの数の人びとに拡散されてしまうと、多少はこういう意見が出てきてしまうのは、マンダラあるあるだ。
 ほとんどの人びとが、白粥さんのポストを受け入れていた。
「こんなことになっちゃうなんて……」
「――伏見さん。やっぱり、マンダラやってんじゃん」
 後ろから、森田くんがわたしのスマホをのぞきこんでいた。
「……こんなときに、勝手に見ないでくれます」
「こんなときにスマホ見てたのは、そっちじゃん」
 ニヤニヤと、笑みを浮かべる、森田くん。
「……っはは。オレは、あんなことにならないよ。スマホを買ってもらうためにSNSのこと、調べまくったんだ。SNSを先にやってたやつよりも、知識はあるつもり。伏見さんも、マンダラでわかんないことあったら、オレに聞いてよ。マンダラゲームなんて、ちょろいって。ようは、バズればいいだけっしょ?」
 スマホをズボンのポケットにしまいながら、森田くんは鳥尾くんのところに戻っていった。
 彼に、話しかけられるようになってしまったな。
 あまり、人と関わらないようにしているのに。気を付けないと。
 また、あのときのような思いはしたくない――。
「それじゃあ、ゲームをはじめましょうかー」
「待って待ってー」
 そこで声をあげたのは、東山くんだった。
 異を唱えるように、まっすぐ手をあげている。
「自分がバズってるってわかるのって、けっこう時間かかるよね。それまで、待ってろってことかな」
「いい質問ですね。マンダラゲームプレイ中のあいだは、安心してください。バズるにふさわしい素晴らしいポストは、すぐにバズっちゃいますよ~!」
「どういうことかな」
 たずねる東山くんに、テンプラが「ふふん」と得意げに、小さな胸をはる。
「マンダラゲーム参加者のアカウントは、すでに現世管理委員会の管理下にあります。ポストを投稿した瞬間に、未来予測的に『リポスト数』、『いいね数』がつきます。つまり、万バズポストなら、一瞬で万バズできるというわけで~す。最高でしょ?」
 すでに、このクラスのアカウントは現世管理委員会の管理下……。
 何をしようが、見張られているということですか。
「バズるまでは、何度でもチャレンジできますから、どんどんマンダラに投稿してくださいね。まあ、早くバズんないと、時間だけが過ぎていくだけですよ。バズるまで、帰れませんからね。
 ああ、あと~! あなたたちには、『本名にまつわること』でバズってもらいます。マンダラは、本名での登録が義務づけられていますからね。『本名にまつわること』でバズってください」
「なんで、本名なのかな?」
 東山くんがたずねると、テンプラは「やれやれ」と鼻を鳴らした。
「ルールを制限しないと、おもしろくないでしょ?」
 そのテンプラの言葉に、わたしはつい、カチンときてしまう。
「おもしろいって……あなたは、おもしろいおもしろくないで、わたしたちの魂を奪おうっていうんですか?」
 早口でいい連ねると、テンプラはとたんに不機嫌になってしまった。
「あなたってつまらない人なんですね~!」
 テンプラは、どこからともなく、今度はわたしのカルテを取り出し、開いた。
「ふうーん。あなたは、伏見入鹿。マンダラで読書アカウントを運営しているんですね。ええ~? 伏見さんって、SNS中毒じゃないですか。魂をやりなおしたほうがいいですよ! まだ、現世管理委員会で、あなたのことは話題にあがっていないようですけどね」
「わたしのアカウントは、読書のことについてしかポストしてないですからね」
「あっそ――そうだ、みなさーん!」
 テンプラが、警告音のように呼んでくる。
「ポストやアカウントを削除したり、整理したりしても無駄ですよ。すでに、現世管理委員会によって、保存されていますからね。まったくもう。インターネットに投稿したものが、そう簡単に消せるわけないって、わかっているでしょ~?」
 とたん、女子たちは隣の子たちとすすり泣きながら寄り添い、男子たちは青ざめた顔で、お互いの顔を見あわせた。
 マンダラゲームが、はじまろうとしていた。
 
 ■
 
「じゃ、こんなゲーム、サクッと終わらせますかー」
「えっ、森田。なんか思いついたのか」
 鳥尾くんが驚くのを見て、森田くんがニヤニヤとスマホをみんなに見せた。
「バズればいいんだろ。簡単じゃん。こういうのは『役に立つ情報』をポストすればいいんだよ。そうすれば、みんなに教えなきゃって、どんどん拡散されていくってわけ」
「なるほど! おまえ、天才じゃん!」
 鳥尾くんが褒めると、森田くんは満足そうに、投稿するポストを打ちこみはじめた。
『オレの名字、森と田んぼのある風景から生まれたっていわれてる名字なんだけどさ。なんとこの名字、歴史上の人物である弓の名手・那須与一と関係のある名字だといわれているらしい! 源平合戦とかいう戦いで、70メートルも先にある小さな扇を弓で射ぬいた人物が、那須与一! しかもこの扇、海の上でゆらゆらゆれている扇よっ? マジヤバい人の子孫なんだけど、オレ!』
 森田くんは書いた内容をみんなに見せつけたあと、満足そうにそのポストを送信し、マンダラ上にアップロードした。
「伏見ちゃん」
 東山くんが、後ろから、ささやくように話しかけてきた。
 オンラインゲーム『箱舟』では、よく話しているけれど、教室内では、ほとんど話したことはない。
 まさか、こんなかたちで東山くんとリアルでおしゃべりをすることになるなんて。
「あれじゃあ、バズんのはむりだねー」
「東山くんも、そう思いますか? あれじゃあ、バズるための何かが足りない――と、わたしも思うんですが、どうやったらバズるのかまではわかりません……」
「たしかに『自分の名前についての豆知識』でバズろうするのは、いいアイデアなんだけど。でも、これだけじゃむずかしいね」
「どうすればいいんでしょうか……」
「いちばんわかりやすいのは、那須与一と自分が、確実に関連している資料の画像をいっしょに添付する、とかかな」
「そんなの、森田くんは持っていないんじゃないでしょうか」
「でしょーね。まあ、何度でもチャレンジできるわけだし、少しずつ感覚を覚えれば――」
「なんだよ! ぜんっぜんバズんねえじゃん! 鳥尾! お前らフォロワーが、ちゃんと拡散しねえからだぞ」
「ちゃんと拡散ってなんだよ。バズんのは、現世管理委員会が未来予測してるんだろ。つまり、不発なのは、お前の力量ってことじゃん」
「はあ? オレは、バズる投稿をしたんだから、バズんないのはフォロワーのせいだろ!  ありえねえ。お前、さっきはオレのこと天才っていってたくせに!」
 森田くんが、鳥尾くんの胸もとに掴みかかる。
「このクラスで、1番スマホを持つのが遅かったからって、バカにしやがって――ぜったいに、オレが最初にバズってやる!」
 すると森田くんは、すぐさまスマホを操作しはじめた。
 ぶつぶつと何かつぶやきながら、ポストを投稿する。
 とたん、真剣にスマホ画面を睨みつけていた森田くんの目が、ぐわっと開く。
「うおっ。見ろよ、お前ら! どんどんリポストがついていく! バズりそうだぞ! やっぱ、オレのやり方は間違ってないんだ!」 
 大喜びの森田くんに、わたしは急いで駆け寄った。
「森田くん。何を投稿したんですか……?」
「あはは、さすがに気になる? さっきのポストをいったん削除して、この画像といっしょに投稿しなおしたんだよ!」
 森田くんが、投稿したポストを見せてくれる。
 それは、那須与一のイラストだった。
 かなりクオリティが高く、ゲームのキャラクター立ち絵でよく見るような、きれいなビジュアルだ。
「こ、このイラスト、どうしたんですか?」
「ネットで拾ったんだよ。これといっしょにアップしたら、バズるだろうなって思ってさ。まっ、予想どおりよ。どーだ、すげえだろ?」
 わたしは、嫌な予感がした。
 森田くんが、いっしょに投稿した画像。これは、誰かが描いたイラストだ。
 森田くんのものではない。だから、勝手に森田くんがネットにあげてはいけないのだ。
『無断転載』といって、誰かのものを盗んだも同然のこと。
 森田くんはおそらく、それを知らずにやってしまっている。
 このままでは、マンダラゲームのルールその②『わるいバズりかたをしないこと』に違反してしまう。
 テンプラにバレるまえに、なんとかこの投稿を削除させないと、森田くんの魂が回収されてしまう。
「ちょ、ちょっと、待ってください……!」
「なに? 伏見さん。邪魔しないでくんない」
 鳥尾くんにジロッと睨まれてしまい、わたしは何もいえなくなってしまう。
 みんな、テンプラに魂を取られたくないからって、バズることに必死だ。
 わたしがいま、「これはわるいバズりかたです」といっても、話しを聞いてもらえそうにない。
 ずっと図書室にいて、教室でコミュニケーションしてこなかった、わたしのいい分よりも、身近な人のバズっている方法を実行したほうが――。
「わたしなんかよりも、信じられますよね……」
 森田くんのポストに鳥尾くんたちが、引用というかたちで『自分の名前の豆知識』をポストする。
 もちろん、きれいなイラスト付きで。
 すると、みんな、あっというまに1000いいね以上ついてしまった。
 現世管理委員会が、バズるポストだと予測したということだろうけれど――この内容では……。
 そのとき、テンプラが教壇の上で、不気味な笑顔を浮かべた。
「マンダラゲームのルール違反、発生~!」
 森田くんがあわてて、丸いテンプラを両手でぎゅむり、と掴む。
「なんでだよ! どこがルール違反なんだ!」
「それは、あの世でお勉強しま~す。魂、回収させていただきまーす」
 マンダラが、カルテに名前を書く。
 森田くん、鳥尾くん。そして、5人の男子の名前。
「うそだろ……やめ……」
 いいかけた森田くんが、そのまま床に倒れこむ。
 森田くんが倒れたのを見て、鳥尾くんが青ざめた。
「も、森田……!」
 しゅんかん、鳥尾くんも5人の男子たちも、ばたりと倒れてしまう。
 テンプラの「魂、回収~」という合図で、7人のクラスメイトは、霧のように消えてしまった。
 とたん、教室のそこかしこから、悲鳴や泣き声が聞こえてくる。
 しかし、テンプラは教壇の上でコロコロと転がり、聞こえないふりをしている。
「おい」
 そのとき、教室のはしっこでずっとスマホをいじっていた栄くんが、1歩前へと踏み出した。
「これ、マンダラゲームなんだろ。仕掛けられてばっかりでいいんかよ」
「栄くん……? 何いって……」 
 わたしが戸惑ったようにいうと、栄くんはスマホを横向きにして、みんなに見せた。
 それは、栄くんがいつもやっているサバイバルゲームのトップ画面。
 栄くんが、かぶっていたフードを脱いで、不敵に笑う。
「こっちからも仕掛けないと、ゲームにならないだろ」
 立ちあがった栄くんが、わたしに近づいて、そっと耳打ちしてきた。
「伏見。お前には、このゲーム向いてない。だから、おれのいうとおりにしろ」
「栄くん。それは……」
 わたしの過去のインターネットトラブルのことをいっているんだろうことは、すぐにわかった。
 わたしが、はじめてSNS『マンダラ』を使った、中学1年生のころ。
 親しくなったばかりのフォロワーさんが、こんなことをポストしたのだ。
『学校、行きたくない……』
 わたしはつい、こう返事を送った。
『学校を休むなんて、小学生までですよ。がんばって行きましょう』
 しかし、その子は体調がわるかったのだ。
 特に、起立性調節障害という不調をわずらっていて、朝、起きたときにめまいがしたり、動悸がしたり、ときには失神してしまったりするもの。
 そのフォロワーさんがそんなことになっているなど知らなかったわたしは、ひどいことをいってしまった、と後悔した。
 その日、学校から帰ってきてすぐに、謝ろうとマンダラを開いた。
 だが、フォロワーさんは、アカウントを消してしまっていた。
 流れてくる投稿には、その子と同じフォロワーさんたちが、わたしのことをポストしていた。
『ひどいなあ。行きたくても、行けない日もあるのにね。学校』
 わたしがでしゃばったから、こんなことになってしまった。
 わたしはその日、アカウントを消した。
 その人は、会ったこともない、フォロワーさんだった。
 でも数回、気兼ねないやり取りをした。わたしは、仲がいいと思いこんでいた。
 わたしは、どうすればよかったんだろう。
 それからわたしは、マンダラでずっと自分のアカウントに鍵をかけて、閉じこもっている。