【第2話 ジュニアスイートの夜と、姉の告白】
〇沖縄・片瀬グループリゾートホテル・ジュニアスイートの部屋・夜
高層階のジュニアスイート。
窓の外には、月明かりに照らされた海が広がっている。
澪がふかふかのベッドに腰を下ろし、そわそわして落ち着かない様子。
澪モノローグ 「――まるで夢みたい」
〇澪の回想
波打ち際で助けられたあと、片瀬ホテルのスタッフだと説明した樹にセミナーで沖縄に来ていること、部屋を追い出された事情を話す。
澪「……実は今回のセミナー、宿泊の手配をしてくれた子が父親の知り合いらしくて割り引いて貰った経緯があって。男友達と過ごしたいからって……。私、ちょっとだけ時間を潰そうと思って、外に出て来たんです――」
澪はあの合コンの日の出来事には一切触れず、今日は澪として、初対面の対応をすると自分に言い聞かせながら……。
大学生らしい話口調で洗いざらい事情を説明する澪。
樹は澪の話を静かに聞いている。
海風に揺れる澪の髪を見つめながら、ふっと笑う。
樹「なるほど。学生あるあるだな。リゾート地でのワンナイトラブ、か」
澪(赤面しながら)「ち、違いますっ! 私は関係ないですから!」
樹「わかってる。……でも、君がこのまま浜辺で夜を明かすのは、うちのリゾートを利用している君に不快な印象を与えかねない」
澪「えっ……」
樹「空いてる部屋がある。案内させるよ」
澪「で、でも……。
樹「遠慮しなくていい。袖振り合うも他生の縁というだろう?」
澪「では……宿泊代は、ちゃんと払います!」
樹「……空いてる部屋だから。気にしなくていい」
〇(引き続き回想中)片瀬リゾートホテルのジュニアスイートの部屋、夜
澪が案内された部屋の扉が開く。
高層階の客室、広々とした空間、上質なインテリア、窓の外には夜の海。
澪「えっ、ここ……私、泊まっていいんですか?」
樹(振り返りながら)「君が困ってるのを見て、放っておけるほど冷たくないよ」
澪「……ありがとうございます」
戸惑いながらもお礼を言い、窓の外に視線を移す。
樹「では、ごゆっくりお寛ぎ下さい。……素敵な夜を。君が少しでも安心して眠れるように」
ドアを閉める直前、澪の姿を一度だけ振り返る。
その視線には、どこか名残惜しさと、守りたいという感情が滲んでいた。
部屋から静かに出ていく、樹。
その背中を無言で見つめる澪。
静かな部屋、彼の残り香の香水が僅かに澪の鼻腔を掠めた。
(回想終了)
〇東京・倉本家・澪の部屋・数日後・昼
澪が沖縄から帰宅し、スーツケースを片付けている。
机の上には、セミナーで撮った写真や資料が並んでいる。
澪モノローグ「沖縄での時間は、夢みたいだった。でも、もう日常に戻らなきゃ」
スマホの写真フォルダを開く澪。
沖縄の伝統衣装や工芸の写真が並ぶ中、偶然写り込んでいた樹の後ろ姿を発見。
澪(小さく呟く)「……やっぱり、夢じゃなかったんだ」
〇片瀬グループ本社・副社長室・昼
重厚なデスクに資料が並ぶ。
樹がスマホを手に取り、連絡先をスクロールする。
スマホ画面に表示される「津島佑介」の名前。
合コンの幹事を務めた、樹の友人で人気トレーダーの佑介に電話をかける樹
樹「……悪い、今いいか?」
佑介(電話越し・軽い調子で)「おー、樹じゃん。どうした? 珍しいな、昼間に電話なんて」
樹「この前の合コン、女性側の幹事って“倉本古都”って子だったよな?」
佑介「ん? ああ、そうそう。え、なんかあった?」
樹「あの女と、少し話がしたいんだけど。連絡先、教えてくれ」
佑介「……え、マジで?樹が女の連絡先聞くとか、初めてでパニクるんだけど、俺」
樹「そうだっけ?まぁなんでもいいけど、早く教えろよ」
佑介「 まさか一目惚れ?」
樹「……そうかもしれないな」
佑介「フッ、樹はあーいうのがタイプなんだぁ。俺も職場の先輩から紹介されただけで、合コンするまでは、電話しか話したことなかったんだよ」
樹「へぇ~。じゃあ、佑介の先輩ってのが幹事の女と知り合いってこと?」
佑介「そうそう、大学が同じだったって言ってた」
樹「ふぅ~ん」
通話を切った樹が、スマホに送られて来た『倉本古都』の連絡先を見つめながら、ふっと笑う。
樹(心の声)「……あの夜、波打ち際で見た彼女の目。あんなに真っすぐで、必死で……忘れるわけがない。スマホ画面に写る“倉本 古都”の名前を見つめながら、彼女の言葉がふと脳裏に浮かぶ」
合コン会場で彼女が呟いた言葉を思い出す樹。
(樹の回想)古都(澪)「中身を見てくれる人と、ちゃんと向き合いたいなぁ」
樹(心の声)「……俺も、そう思ってた。ずっと前から……」
ふっと微笑む樹。
〇丸の内のとあるカフェ・昼
都内の落ち着いた雰囲気のカフェ。
前日の夜に樹は古都に連絡を入れ、翌日の昼休みに会う約束を取り付けていた。
テーブルをはさんで、古都の向かいに樹が座っている。
テーブルの上にはコーヒーと琉球文化のセミナー資料が並べられている。
樹「沖縄のセミナーで、君そっくりの子を見かけたんだよね」
古都モノローグ(苦笑しながら)「……やっぱり、バレたか」
古都と澪は年齢が6歳離れてはいるが、双子に間違われるくらい結構そっくり。
凪沙のヘアメイクでバレないと思っていた古都は、バツが悪そうに視線を泳がせる。
樹「君はメガバンク勤務のはず。平日の昼間に有休をとって訪れたにしては、熱の入れようがハンパなかったし、大学生のゼミの子たちと普通に会話してたしね」
古都(観念して)「……片瀬さんが見たという子、澪って言います。……私の妹です。合コンの日にどうしても外せない出張が入ってしまって、代わりに行ってもらったんです」
樹はじっくりと目の前にいる古都を見る。
姉妹なのだから似てるのは当たり前だが、視線の置き方や話す時の相槌の仕方が、やはり大学生とは違う、場慣れした雰囲気を感じ取る。
樹「なるほど」
古都「でも、澪は真面目で……嘘をつくのが苦手で。だから、すぐバレたんじゃないですか?」
樹「……いや、うまく演じてたよ。でも、ちょっとした違和感があってね。それが、気になっただけだ」
古都「……もしかして、怒ってます?」
樹「怒ってない。ただ、彼女のことをもっと知りたいと思っただけ」
樹がスーツの内ポケットから封筒を取り出す。
樹「片瀬グループのホテル・旅館で使えるペア宿泊券を何セットか入れてある」
古都の目が封筒に釘付けになる。
樹「妹さんの連絡先、教えてもらえますか?彼女のことをもっと知りたい」
古都は幹事なのに妹を偽って参加させたことに後ろめたさを感じていて、さらに片瀬グループと言えば、高額な宿泊代で有名なブランドホテルや旅館ばかり。
十数秒悩んだ末……。
古都「……澪、ごめん」
古都が封筒を手にした瞬間、樹の目が鋭く光り、口角が緩やかに持ち上がった。
〇澪の部屋・夜
澪がベッドに寝転び、スマホを充電器に差し込む。
画面に「不在着信(15件)」の表示。
澪(眉をひそめて)「え、また? なんだろう、これ。全部同じ番号だけど……」
澪モノローグ「……まさか、沖縄であったあの人?いや、そんなはず……。連絡先も教えてないし。……でも、もしバレてたら……?」
スマホを伏せた手が、ほんの少し震えている。
澪(心の声)「私、嘘ついたんだよね……あの人に」
〇沖縄・片瀬グループリゾートホテル・ジュニアスイートの部屋・夜
高層階のジュニアスイート。
窓の外には、月明かりに照らされた海が広がっている。
澪がふかふかのベッドに腰を下ろし、そわそわして落ち着かない様子。
澪モノローグ 「――まるで夢みたい」
〇澪の回想
波打ち際で助けられたあと、片瀬ホテルのスタッフだと説明した樹にセミナーで沖縄に来ていること、部屋を追い出された事情を話す。
澪「……実は今回のセミナー、宿泊の手配をしてくれた子が父親の知り合いらしくて割り引いて貰った経緯があって。男友達と過ごしたいからって……。私、ちょっとだけ時間を潰そうと思って、外に出て来たんです――」
澪はあの合コンの日の出来事には一切触れず、今日は澪として、初対面の対応をすると自分に言い聞かせながら……。
大学生らしい話口調で洗いざらい事情を説明する澪。
樹は澪の話を静かに聞いている。
海風に揺れる澪の髪を見つめながら、ふっと笑う。
樹「なるほど。学生あるあるだな。リゾート地でのワンナイトラブ、か」
澪(赤面しながら)「ち、違いますっ! 私は関係ないですから!」
樹「わかってる。……でも、君がこのまま浜辺で夜を明かすのは、うちのリゾートを利用している君に不快な印象を与えかねない」
澪「えっ……」
樹「空いてる部屋がある。案内させるよ」
澪「で、でも……。
樹「遠慮しなくていい。袖振り合うも他生の縁というだろう?」
澪「では……宿泊代は、ちゃんと払います!」
樹「……空いてる部屋だから。気にしなくていい」
〇(引き続き回想中)片瀬リゾートホテルのジュニアスイートの部屋、夜
澪が案内された部屋の扉が開く。
高層階の客室、広々とした空間、上質なインテリア、窓の外には夜の海。
澪「えっ、ここ……私、泊まっていいんですか?」
樹(振り返りながら)「君が困ってるのを見て、放っておけるほど冷たくないよ」
澪「……ありがとうございます」
戸惑いながらもお礼を言い、窓の外に視線を移す。
樹「では、ごゆっくりお寛ぎ下さい。……素敵な夜を。君が少しでも安心して眠れるように」
ドアを閉める直前、澪の姿を一度だけ振り返る。
その視線には、どこか名残惜しさと、守りたいという感情が滲んでいた。
部屋から静かに出ていく、樹。
その背中を無言で見つめる澪。
静かな部屋、彼の残り香の香水が僅かに澪の鼻腔を掠めた。
(回想終了)
〇東京・倉本家・澪の部屋・数日後・昼
澪が沖縄から帰宅し、スーツケースを片付けている。
机の上には、セミナーで撮った写真や資料が並んでいる。
澪モノローグ「沖縄での時間は、夢みたいだった。でも、もう日常に戻らなきゃ」
スマホの写真フォルダを開く澪。
沖縄の伝統衣装や工芸の写真が並ぶ中、偶然写り込んでいた樹の後ろ姿を発見。
澪(小さく呟く)「……やっぱり、夢じゃなかったんだ」
〇片瀬グループ本社・副社長室・昼
重厚なデスクに資料が並ぶ。
樹がスマホを手に取り、連絡先をスクロールする。
スマホ画面に表示される「津島佑介」の名前。
合コンの幹事を務めた、樹の友人で人気トレーダーの佑介に電話をかける樹
樹「……悪い、今いいか?」
佑介(電話越し・軽い調子で)「おー、樹じゃん。どうした? 珍しいな、昼間に電話なんて」
樹「この前の合コン、女性側の幹事って“倉本古都”って子だったよな?」
佑介「ん? ああ、そうそう。え、なんかあった?」
樹「あの女と、少し話がしたいんだけど。連絡先、教えてくれ」
佑介「……え、マジで?樹が女の連絡先聞くとか、初めてでパニクるんだけど、俺」
樹「そうだっけ?まぁなんでもいいけど、早く教えろよ」
佑介「 まさか一目惚れ?」
樹「……そうかもしれないな」
佑介「フッ、樹はあーいうのがタイプなんだぁ。俺も職場の先輩から紹介されただけで、合コンするまでは、電話しか話したことなかったんだよ」
樹「へぇ~。じゃあ、佑介の先輩ってのが幹事の女と知り合いってこと?」
佑介「そうそう、大学が同じだったって言ってた」
樹「ふぅ~ん」
通話を切った樹が、スマホに送られて来た『倉本古都』の連絡先を見つめながら、ふっと笑う。
樹(心の声)「……あの夜、波打ち際で見た彼女の目。あんなに真っすぐで、必死で……忘れるわけがない。スマホ画面に写る“倉本 古都”の名前を見つめながら、彼女の言葉がふと脳裏に浮かぶ」
合コン会場で彼女が呟いた言葉を思い出す樹。
(樹の回想)古都(澪)「中身を見てくれる人と、ちゃんと向き合いたいなぁ」
樹(心の声)「……俺も、そう思ってた。ずっと前から……」
ふっと微笑む樹。
〇丸の内のとあるカフェ・昼
都内の落ち着いた雰囲気のカフェ。
前日の夜に樹は古都に連絡を入れ、翌日の昼休みに会う約束を取り付けていた。
テーブルをはさんで、古都の向かいに樹が座っている。
テーブルの上にはコーヒーと琉球文化のセミナー資料が並べられている。
樹「沖縄のセミナーで、君そっくりの子を見かけたんだよね」
古都モノローグ(苦笑しながら)「……やっぱり、バレたか」
古都と澪は年齢が6歳離れてはいるが、双子に間違われるくらい結構そっくり。
凪沙のヘアメイクでバレないと思っていた古都は、バツが悪そうに視線を泳がせる。
樹「君はメガバンク勤務のはず。平日の昼間に有休をとって訪れたにしては、熱の入れようがハンパなかったし、大学生のゼミの子たちと普通に会話してたしね」
古都(観念して)「……片瀬さんが見たという子、澪って言います。……私の妹です。合コンの日にどうしても外せない出張が入ってしまって、代わりに行ってもらったんです」
樹はじっくりと目の前にいる古都を見る。
姉妹なのだから似てるのは当たり前だが、視線の置き方や話す時の相槌の仕方が、やはり大学生とは違う、場慣れした雰囲気を感じ取る。
樹「なるほど」
古都「でも、澪は真面目で……嘘をつくのが苦手で。だから、すぐバレたんじゃないですか?」
樹「……いや、うまく演じてたよ。でも、ちょっとした違和感があってね。それが、気になっただけだ」
古都「……もしかして、怒ってます?」
樹「怒ってない。ただ、彼女のことをもっと知りたいと思っただけ」
樹がスーツの内ポケットから封筒を取り出す。
樹「片瀬グループのホテル・旅館で使えるペア宿泊券を何セットか入れてある」
古都の目が封筒に釘付けになる。
樹「妹さんの連絡先、教えてもらえますか?彼女のことをもっと知りたい」
古都は幹事なのに妹を偽って参加させたことに後ろめたさを感じていて、さらに片瀬グループと言えば、高額な宿泊代で有名なブランドホテルや旅館ばかり。
十数秒悩んだ末……。
古都「……澪、ごめん」
古都が封筒を手にした瞬間、樹の目が鋭く光り、口角が緩やかに持ち上がった。
〇澪の部屋・夜
澪がベッドに寝転び、スマホを充電器に差し込む。
画面に「不在着信(15件)」の表示。
澪(眉をひそめて)「え、また? なんだろう、これ。全部同じ番号だけど……」
澪モノローグ「……まさか、沖縄であったあの人?いや、そんなはず……。連絡先も教えてないし。……でも、もしバレてたら……?」
スマホを伏せた手が、ほんの少し震えている。
澪(心の声)「私、嘘ついたんだよね……あの人に」



