翌日。
紗菜は会長に言われた追加レッスンのため、御堂家とは別の施設へ向かった。
そこで待っていたのは――なぜか、舞だった。
「怜司さんから聞いたわ。あなた、今日ここで“品格テスト”を受けるんだって?」
舞の笑顔は完璧だ。
でもどこか、何かを企んでいる光があった。
「テストの前に、一緒に軽く外を歩きましょう。
あなたがどれだけ“婚約者らしく見えるか”、見ておきたいから」
紗菜は戸惑いつつも断れなかった。
施設の外に出ると、街のカフェ通り。
舞は紗菜と少し距離をとって歩きながら言う。
「紗菜さん、昨日のイベントで……怜司さん、あなたを抱き寄せたわよね」
「っ……あ、あれは……!」
「契約婚なのに……まるで本物の恋人同士みたいだった」
舞の声は穏やか。
けれどその穏やかさが、紗菜の胸をざわつかせる。
「誤解されないようにね。
怜司さんは、誰にでも優しいから」
胸が苦しくなる。
怜司が“誰にでもそんなことをする人”だとは思いたくない。
けれど、舞の言葉は鋭い針みたいに刺さった。
(私だけ……じゃないの……?)
その瞬間だった。
バシャッ!
前方でカメラのシャッターが切られた。
「御堂怜司の婚約者、発見!」
「契約結婚って本当ですか!?」
「あなた、彼に捨てられたらどうするんですか?」
記者たちが一斉に紗菜を囲んだ。
突然のことに足がすくむ。
「や、やめてください……っ」
「やっぱり契約ですよね?
身分が違いすぎますもんね!」
「や、やめ……っ」
怖い。
足が震える。
逃げられない。
舞が一歩後ろへ下がっていくのが見えた。
――罠。
気づいた瞬間、紗菜の胸に冷たいものが落ちた。
(どうしよう……ここでパニックになったら……
怜司さんに迷惑……)
涙が滲む。
もうだめだ――と思ったそのとき。
黒い影が飛び込んできた。
「紗菜!」
怜司だった。
その顔は怒りに染まっていて、見たことのない表情だった。
彼は迷いなく紗菜の腕を掴み、強く抱き寄せた。
「……誰が、紗菜に触れた」
低い声。
記者たちの動きが一瞬で止まる。
怜司の纏う気迫に、誰も近づけない。
「御堂さん、説明を――!」
「紗菜は俺の婚約者だ。
彼女を傷つける記事を出せば、御堂家は黙っていない」
怜司の声は静かで冷たくて、恐ろしいほど本気だった。
記者たちは一歩、二歩と後退した。
怜司は紗菜の肩に腕を回し、震える体を優しく抱き寄せる。
「……怖かったな」
耳元で落ちる声は、さっきの怒りの色を消していた。
紗菜の胸が甘く震える。
「れ、怜司さん……私……」
紗菜の声が詰まり、涙が頬を伝う。
怜司は迷いなく、その涙を指で拭った。
「よく我慢した。
泣いていい。俺がいる」
その一言で、紗菜は完全に崩れ落ちた。
怜司の胸に顔を埋め、肩を震わせて泣く。
怜司は何も言わず、ただ強く抱きしめてくれた。
その腕の温かさが、世界のすべてを覆ってくれるみたいだった。
車に乗り込むと、怜司は紗菜を膝の上に抱いたまま離そうとしない。
「……紗菜。
舞に誘われた時点で、俺に連絡しろと言ったよな」
「ごめんなさい……怜司さんに迷惑かけたくなくて……」
「迷惑なわけがない」
怜司は強く言い切った。
そのまま紗菜の頬に手を添え、顔を近づけてくる。
「……こんな顔、させたくない」
触れそうで触れない距離。
紗菜の心がぎゅっと締めつけられる。
「契約だからとか……そういう問題じゃない。
お前が傷つくのは、俺が許せない」
紗菜は涙を拭きながら、震える声で言った。
「怜司さん……どうしてそこまで……優しくするんですか……?」
怜司は一瞬だけ目を閉じ、静かに息を吐いた。
そして、紗菜を胸に抱き寄せたまま、低く囁く。
「……理由なんて言わせるな」
「っ……」
「紗菜に触れた記者も、泣かせた舞も……全部俺が許せなくなる。
これ以上、気持ちを押さえ込むのが……限界なんだ」
息が止まる。
胸が苦しい。
怜司の手が紗菜の背中をゆっくり撫でるたび、身体が熱くなる。
そのまま肩に軽く唇が触れた。
優しくて、甘くて、震えるくらい温かいキス。
「……紗菜。
俺はもう……お前を契約の相手とは思えない」
紗菜は怜司の胸にぎゅっとしがみついた。
この恋は、もう後戻りできない。
契約なんてとっくに越えてしまっている。
紗菜は会長に言われた追加レッスンのため、御堂家とは別の施設へ向かった。
そこで待っていたのは――なぜか、舞だった。
「怜司さんから聞いたわ。あなた、今日ここで“品格テスト”を受けるんだって?」
舞の笑顔は完璧だ。
でもどこか、何かを企んでいる光があった。
「テストの前に、一緒に軽く外を歩きましょう。
あなたがどれだけ“婚約者らしく見えるか”、見ておきたいから」
紗菜は戸惑いつつも断れなかった。
施設の外に出ると、街のカフェ通り。
舞は紗菜と少し距離をとって歩きながら言う。
「紗菜さん、昨日のイベントで……怜司さん、あなたを抱き寄せたわよね」
「っ……あ、あれは……!」
「契約婚なのに……まるで本物の恋人同士みたいだった」
舞の声は穏やか。
けれどその穏やかさが、紗菜の胸をざわつかせる。
「誤解されないようにね。
怜司さんは、誰にでも優しいから」
胸が苦しくなる。
怜司が“誰にでもそんなことをする人”だとは思いたくない。
けれど、舞の言葉は鋭い針みたいに刺さった。
(私だけ……じゃないの……?)
その瞬間だった。
バシャッ!
前方でカメラのシャッターが切られた。
「御堂怜司の婚約者、発見!」
「契約結婚って本当ですか!?」
「あなた、彼に捨てられたらどうするんですか?」
記者たちが一斉に紗菜を囲んだ。
突然のことに足がすくむ。
「や、やめてください……っ」
「やっぱり契約ですよね?
身分が違いすぎますもんね!」
「や、やめ……っ」
怖い。
足が震える。
逃げられない。
舞が一歩後ろへ下がっていくのが見えた。
――罠。
気づいた瞬間、紗菜の胸に冷たいものが落ちた。
(どうしよう……ここでパニックになったら……
怜司さんに迷惑……)
涙が滲む。
もうだめだ――と思ったそのとき。
黒い影が飛び込んできた。
「紗菜!」
怜司だった。
その顔は怒りに染まっていて、見たことのない表情だった。
彼は迷いなく紗菜の腕を掴み、強く抱き寄せた。
「……誰が、紗菜に触れた」
低い声。
記者たちの動きが一瞬で止まる。
怜司の纏う気迫に、誰も近づけない。
「御堂さん、説明を――!」
「紗菜は俺の婚約者だ。
彼女を傷つける記事を出せば、御堂家は黙っていない」
怜司の声は静かで冷たくて、恐ろしいほど本気だった。
記者たちは一歩、二歩と後退した。
怜司は紗菜の肩に腕を回し、震える体を優しく抱き寄せる。
「……怖かったな」
耳元で落ちる声は、さっきの怒りの色を消していた。
紗菜の胸が甘く震える。
「れ、怜司さん……私……」
紗菜の声が詰まり、涙が頬を伝う。
怜司は迷いなく、その涙を指で拭った。
「よく我慢した。
泣いていい。俺がいる」
その一言で、紗菜は完全に崩れ落ちた。
怜司の胸に顔を埋め、肩を震わせて泣く。
怜司は何も言わず、ただ強く抱きしめてくれた。
その腕の温かさが、世界のすべてを覆ってくれるみたいだった。
車に乗り込むと、怜司は紗菜を膝の上に抱いたまま離そうとしない。
「……紗菜。
舞に誘われた時点で、俺に連絡しろと言ったよな」
「ごめんなさい……怜司さんに迷惑かけたくなくて……」
「迷惑なわけがない」
怜司は強く言い切った。
そのまま紗菜の頬に手を添え、顔を近づけてくる。
「……こんな顔、させたくない」
触れそうで触れない距離。
紗菜の心がぎゅっと締めつけられる。
「契約だからとか……そういう問題じゃない。
お前が傷つくのは、俺が許せない」
紗菜は涙を拭きながら、震える声で言った。
「怜司さん……どうしてそこまで……優しくするんですか……?」
怜司は一瞬だけ目を閉じ、静かに息を吐いた。
そして、紗菜を胸に抱き寄せたまま、低く囁く。
「……理由なんて言わせるな」
「っ……」
「紗菜に触れた記者も、泣かせた舞も……全部俺が許せなくなる。
これ以上、気持ちを押さえ込むのが……限界なんだ」
息が止まる。
胸が苦しい。
怜司の手が紗菜の背中をゆっくり撫でるたび、身体が熱くなる。
そのまま肩に軽く唇が触れた。
優しくて、甘くて、震えるくらい温かいキス。
「……紗菜。
俺はもう……お前を契約の相手とは思えない」
紗菜は怜司の胸にぎゅっとしがみついた。
この恋は、もう後戻りできない。
契約なんてとっくに越えてしまっている。



