落下の感覚は一瞬だった。
闇の中で何度も身体が回転し、風が頬を切る。
莉子は、とっさに奏叶の腕にしがみつく。
奏叶も、全力で彼女を抱き寄せた。
「大丈夫だ、離れるな!」
その声が届いた瞬間、下から柔らかい衝撃が二人を包む。
——バーンッ!
「っ……!」
巨大なマットのようなものに落ちたらしい。
衝撃はあったが、骨に異常はない。
莉子の頭がぐらぐらし、視界はぼんやりと揺れる。
薄暗い天井が滲んで見えた。
数秒後、ようやく息を整えると——
「…………っ、莉子!」
奏叶が肩を支え、真っ直ぐに覗き込む。
声が震えていた。
「どこか痛いところはないか?」
「う……ん、大丈夫……奏叶は?」
「俺も平気だ」
その言葉に、胸の奥がじんと熱くなる。
こんな状況でも、奏叶は真っ先に自分を心配してくれる——
——あの獣医の言葉が頭に浮かぶ。
「首に爆弾がある。解除は二人が本当に思い合っている場合のみ、キスで可能」
莉子の心臓が、速く、痛いほどに打つ。
「……奏叶」
「どうした?」
言いかけて、喉が詰まる。
『爆弾なんて嘘だよね……?』
『キスで解除なんて……本当に?』
怖くて声にならない。
(奏叶が……もし死んだら……)
想像するだけで息が詰まる。
奏叶は、莉子の不安に気づいたらしい。
優しく微笑む。
「大丈夫だ。爆弾が本物でも……莉子に危害は絶対加えさせない」
「なんで、ひとりで……背負うの?」
震える声で問いかけると、奏叶は目を伏せる。
「ひとりで背負ったんじゃない。莉子に負わせたくなかっただけだ」
「奏叶……」
「莉子が怖がる顔を、俺は見たくなかった」
低くかすれた声。
その一言だけで、胸が締めつけられる。
まるで、ずっと前から自分のことを思ってくれていたみたいに。
莉子は胸を押さえ、震える息を吐く。
——そのとき、廊下の奥で靴音が響く。
——カツ、カツ、カツ。
薄暗い空間に黒い影が現れた。
「……やっと見つけたじゃん、二人とも」
その声には聞き覚えがあった。
ライトに浮かんだのは——篠山佳奈。
親友であり、獣医の手下。
表情は冷たく、鋭く、ねじれた怒りを帯びている。
「佳奈……どうして……?」
莉子が声を震わせると、佳奈は吐き捨てる。
「逆に聞かせてよ、莉子。
なんであんただけが奏叶に守られてるわけ?」
「……え?」
「アンタなんかより、私の方が奏叶を……!」
声が震え、嫉妬がむき出しになる。
奏叶が前に出る。
「佳奈。もうやめろ。お前が何を抱えていようと、莉子を巻き込むな」
佳奈は嘲笑し、スマホを取り出す。
「じゃあ、これどう?」
画面には赤く光る文字——
「奏叶の首のデバイス作動」
莉子の血の気が引く。
「佳奈……やめて……!」
「だったら証明してよ、莉子。
アンタが“奏叶の特別”じゃないってことを……!」
警告音が鳴り響く——
ピピピピッ!
奏叶が苦しげに首筋を押さえる。
「っ……く……!」
「奏叶!!」
莉子は叫び、駆け寄ろうとする。
しかし佳奈が腕を掴む。
「行くなって言ってんの!」
「離して! 奏叶が……!」
「うるさい!!」
莉子は押し返され、壁にぶつかりそうになった瞬間——
「莉子!!」
奏叶が力の限り腕を伸ばし、莉子を抱きしめながら倒れ込む。
床に転がる二人。
奏叶は苦痛に顔を歪めながらも、必死に莉子を守る。
「奏叶……っ!!」
莉子は涙を滲ませ、胸に顔を埋める。
「……怪我、ないな」
「あるよ……心臓が痛い……怖かった……!」
「泣くな……俺が守る。絶対に」
莉子は胸に溢れる想いを止められなかった。
——守りたい。
——失いたくない。
思い切り奏叶の頬に手を添え、息を震わせる。
視線がぶつかり、互いの鼓動が伝わる距離で、自然と唇が重なる。
電流のような熱が走り、首の痛みが少し和らぐ。
奏叶の瞳に、死への恐怖と、でも自分を守りたいという愛が映る。
莉子は涙をこらえ、さらに彼に近づく。
互いの呼吸が重なり、唇が自然に深く絡み合う——
赤いランプが徐々に落ち着き、奏叶の表情に安堵と愛情があふれ出す。
「奏叶……絶対に離れない……」
「俺もだ……莉子」
二人の心は、危険を越えてつながった——
佳奈は悲鳴を上げ、スマホを握りしめる。
「……なんで……なんで二人とも……!!」
莉子と奏叶は、互いの存在を確かめるように抱き合ったまま、次の行動に向かう。
まだ獣医の罠は終わらない。だが、二人の絆は揺るがない——
闇の中で何度も身体が回転し、風が頬を切る。
莉子は、とっさに奏叶の腕にしがみつく。
奏叶も、全力で彼女を抱き寄せた。
「大丈夫だ、離れるな!」
その声が届いた瞬間、下から柔らかい衝撃が二人を包む。
——バーンッ!
「っ……!」
巨大なマットのようなものに落ちたらしい。
衝撃はあったが、骨に異常はない。
莉子の頭がぐらぐらし、視界はぼんやりと揺れる。
薄暗い天井が滲んで見えた。
数秒後、ようやく息を整えると——
「…………っ、莉子!」
奏叶が肩を支え、真っ直ぐに覗き込む。
声が震えていた。
「どこか痛いところはないか?」
「う……ん、大丈夫……奏叶は?」
「俺も平気だ」
その言葉に、胸の奥がじんと熱くなる。
こんな状況でも、奏叶は真っ先に自分を心配してくれる——
——あの獣医の言葉が頭に浮かぶ。
「首に爆弾がある。解除は二人が本当に思い合っている場合のみ、キスで可能」
莉子の心臓が、速く、痛いほどに打つ。
「……奏叶」
「どうした?」
言いかけて、喉が詰まる。
『爆弾なんて嘘だよね……?』
『キスで解除なんて……本当に?』
怖くて声にならない。
(奏叶が……もし死んだら……)
想像するだけで息が詰まる。
奏叶は、莉子の不安に気づいたらしい。
優しく微笑む。
「大丈夫だ。爆弾が本物でも……莉子に危害は絶対加えさせない」
「なんで、ひとりで……背負うの?」
震える声で問いかけると、奏叶は目を伏せる。
「ひとりで背負ったんじゃない。莉子に負わせたくなかっただけだ」
「奏叶……」
「莉子が怖がる顔を、俺は見たくなかった」
低くかすれた声。
その一言だけで、胸が締めつけられる。
まるで、ずっと前から自分のことを思ってくれていたみたいに。
莉子は胸を押さえ、震える息を吐く。
——そのとき、廊下の奥で靴音が響く。
——カツ、カツ、カツ。
薄暗い空間に黒い影が現れた。
「……やっと見つけたじゃん、二人とも」
その声には聞き覚えがあった。
ライトに浮かんだのは——篠山佳奈。
親友であり、獣医の手下。
表情は冷たく、鋭く、ねじれた怒りを帯びている。
「佳奈……どうして……?」
莉子が声を震わせると、佳奈は吐き捨てる。
「逆に聞かせてよ、莉子。
なんであんただけが奏叶に守られてるわけ?」
「……え?」
「アンタなんかより、私の方が奏叶を……!」
声が震え、嫉妬がむき出しになる。
奏叶が前に出る。
「佳奈。もうやめろ。お前が何を抱えていようと、莉子を巻き込むな」
佳奈は嘲笑し、スマホを取り出す。
「じゃあ、これどう?」
画面には赤く光る文字——
「奏叶の首のデバイス作動」
莉子の血の気が引く。
「佳奈……やめて……!」
「だったら証明してよ、莉子。
アンタが“奏叶の特別”じゃないってことを……!」
警告音が鳴り響く——
ピピピピッ!
奏叶が苦しげに首筋を押さえる。
「っ……く……!」
「奏叶!!」
莉子は叫び、駆け寄ろうとする。
しかし佳奈が腕を掴む。
「行くなって言ってんの!」
「離して! 奏叶が……!」
「うるさい!!」
莉子は押し返され、壁にぶつかりそうになった瞬間——
「莉子!!」
奏叶が力の限り腕を伸ばし、莉子を抱きしめながら倒れ込む。
床に転がる二人。
奏叶は苦痛に顔を歪めながらも、必死に莉子を守る。
「奏叶……っ!!」
莉子は涙を滲ませ、胸に顔を埋める。
「……怪我、ないな」
「あるよ……心臓が痛い……怖かった……!」
「泣くな……俺が守る。絶対に」
莉子は胸に溢れる想いを止められなかった。
——守りたい。
——失いたくない。
思い切り奏叶の頬に手を添え、息を震わせる。
視線がぶつかり、互いの鼓動が伝わる距離で、自然と唇が重なる。
電流のような熱が走り、首の痛みが少し和らぐ。
奏叶の瞳に、死への恐怖と、でも自分を守りたいという愛が映る。
莉子は涙をこらえ、さらに彼に近づく。
互いの呼吸が重なり、唇が自然に深く絡み合う——
赤いランプが徐々に落ち着き、奏叶の表情に安堵と愛情があふれ出す。
「奏叶……絶対に離れない……」
「俺もだ……莉子」
二人の心は、危険を越えてつながった——
佳奈は悲鳴を上げ、スマホを握りしめる。
「……なんで……なんで二人とも……!!」
莉子と奏叶は、互いの存在を確かめるように抱き合ったまま、次の行動に向かう。
まだ獣医の罠は終わらない。だが、二人の絆は揺るがない——



