彼と、花火と、観覧車

「違うって?」
「だから、先輩を好きだったことは一度もないよ」
「え、本当に?」

 あきれつつ、今度は大きくうなずいた。
 それを見た彼が、天を仰いで「ウソだろ」とつぶやいている。

 だが、そう言いたいのは私のほうだ。
 だって私の思い人はずっと夏生だったから。――夏生にしか、恋をしていないから。

「俺はなにをやってるんだ」

 ひとりごとをつぶやく彼の横顔を見つめる。
「私は夏生が好きなんだよ」と、ここで打ち明けたら、いったいどうなるだろう?
 きっとビックリして引かれるに違いない。
 勝手にそんな妄想をして、絶対に言えないなと思った。

「羽衣、あのさ……」
「ん?」
「あの観覧車、乗ったことある?」

 そう問われ、小さく首を振った。
 キラキラとした光が水面に映って輪を描く観覧車――
 近くを通ることはあっても、実際に乗る機会は今まで一度もなかった。
 だいたい、観覧車はカップルで乗るものだから、その時点で私には縁がない。

「じゃあ、乗りに行こう」
「今から?」
「ほら、早く」

 夏生が自然に私の左手を取って歩き出す。
 その行動に、ドキンと心臓がひとつ大きく跳ねた。
 触れられた手から彼の体温が伝わってきて、どうしようもなくそこに意識が集中してしまう。