雲の花嫁

「ユイ……ごめんなさい……ごめんなさい……!」

「私なら大丈夫です、母さん。そんなに泣かないで」

「おい、ユイ……本当に行っちまうのかよ!」


 そのとき、幼馴染のカイルが険しい面持ちで駆け寄ってきた。
 ユイは黙って首を横に振る。


「ええ、行くわ。それが私のお役目で、そのためにいままで生かされてきたの。知ってるでしょう」


 言葉を飲み込むカイルに背を向け、ユイは母と共に家へと戻り、その夜を静かに明かした。
 夜空には星々が瞬き、ユイは最期に(あお)ぐ景色がかくも美しき空であることに、胸が締めつけられる思いで涙を堪えた。

 翌朝、家を出たユイの前にカイルが立っていた。されど彼女は視線を交わすことなく、ただ黙して神殿へと歩を進めた。
 涙に沈む母と別れを告げ、ユイは司祭と巫女たちに導かれつつ、社へと歩を進めた。
 身を(きよ)め、潔白なる衣をまとい、静かに祭壇へと身を横たえた。


「ここに、神への供物(くもつ)を捧げます」


 司祭の声が神殿に響いた刹那、蒼穹は(かげ)り、暗雲が渦を巻きはじめた。
 やがて巨大な竜が天より舞い降り、ユイの身をひと掬いにすると、疾風と共に空へと姿を消した。