ユイは生まれながらにして、生贄となる定めを負っていた。
 ゆえに、村と神を結ぶ者として、(ユイ)と名付けられた。

 彼女が選ばれた理由は、実に単純なことであった。
 彼女の生まれた年、他に生まれた赤子はすべて男児であり、しかも父は彼女の誕生直前に徴兵(ちょうへい)で命を落としていた。

 すなわち、後ろ盾を持たぬ母には、神事を拒む(すべ)などなかったのである。


 ユイが齢十八になったとき、司祭に母子共々呼び出された。


「ユイ、此度(こたび)の呼び出しの用件は、わかっていような?」

「はい、司祭様。心得ております」


 村の最奥の古びた神殿。
 神の像の前で、ユイは(こうべ)を垂れた。
 司祭は満足気に頷き、後ろに控える母は肩を震わせて俯いている。


「この地を治める雲神様に、その身をささげるのだ。さすれば、後の百年、我が村は滅びを免れる」

「はい。よくしていただいた村の皆様に、この身を持って恩返しいたします」

「よろしい。ではせめてもの猶予をやろう。明日の早朝に(やしろ)に参れ。それまでは自由とする」

「ありがたきお言葉。感謝いたします」


 ユイは深く頭を垂れたまま、母と連れ立って、静かに神殿を後にした。