雲の花嫁

 カイルは顔を真っ青にし、なおも「ユイ……!」と震える声で呼び続けながら、仲間の男たちに半ば引きずられるように祭壇の間を去っていった。

 入れ替わりで、ユイの母が飛び込んできた。
 ユイは目配せをして、司祭たちを下がらせる。


「ユイ、ユイなの……?」

「お母さん……!!」


 ユイは祭壇から降り、母へと駆け寄る。


「お母さん……! こんなに痩せ細ってしまって……心配をかけて、ごめんなさい……」

「あなたが無事なら、それでいいのよ……ユイ、私の子……」


 母娘が泣きながら抱き合う間に、司祭が一人で戻ってきた。
 そして、入り口に呪いをかける。
 一瞬覗いた空は、暗雲が渦巻き、雷が走っていた。


「やれやれ……。ユイ、きみ、役者だねえ……ちょっと大根だけど」


 苦笑する司祭に、ユイは気まずい思いで頭を下げた。


「う、申し訳ありません……演じるのには慣れなくて……」

「かまわんよ。こちらこそ、つらい役目を負わせてしまい、申し訳なかった」


 そしてユイはクロードとの企みを話した。
 雲の亀裂のこと。
 ユイがクロードの使いとして君臨することで村の安寧を守ること。


「ユイは、それでいいの……? その、あなたは雲神様のことは……」


 困惑する母に、ユイは柔らかく微笑みかけた。


「愛しております。あんなにもわたくしを慈しみ、守ってくださった方は、お母さんを除けばただお一人……雲神様だけです。わたくしの命も心も、すべてあの方に捧げております。……けれども、わたくしが雲上に留まれば、人は決して争いをやめませんでしょう?」

「カイルは……そうだね。最後まで君が贄となることを拒んでいたから」

「司祭様は、クロード様のことをご存知でらしたのね?」

「無論だとも。私の父や祖父……もっと前から、代々友人……というのは図々しいかもしれないが、よくして頂いていたから。しかし、なかなか今の若者には『神様』は理解し難いらしい」


 司祭の寂しそうな顔に、ユイは頷いた。

 もっともユイは、クロード様の真の御心と優しさは、己と代々の妻だけが知っていればよいと静かに思っていた。