雲の花嫁

 早朝、ユイは薄雲を抜けて、祭壇へと降り立った。


「司祭、司祭はおりますか!」

「こ、これは……ユイ……?」

「ユイ様、と。わたくし、彼の方の使いとして参りましたの」


 ユイは気高き女神のごとく堂々と振る舞い、司祭と巫女たちを鋭い眼差しで見下ろした。
 そのために、クロードは彼女を真の女神と見まがうほどに荘厳に着飾らせていた。


「……ユイ様、此度はどういったご用件で……?」


 事態を察した司祭が素早く膝をつく。
 混乱したままの巫女たちも司祭に倣った。


「幾度も神域を汚すその蛮行、もはや見過ごせません。神の使いとして、わたくしが直々にあなた方を監視いたします。わたくしに仇なすことあらば、神罰が下ると肝に銘じなさい」

「はは……っ。かしこまりまして、ございます」


 司祭が頭を垂れると同時に、祭壇の間に武装した男たちが現れた。
 先頭にたつ男、カイルがユイを見て目を見開く。


「ユイ……! 無事だったんだな……!?」

「無礼者」


 駆け寄ろうとするカイルを、ユイは氷のような声音で一喝した。
 カイルは立ち止まり、ポカンと彼女を見上げる。


「ユイ……? どうした……? その格好は……?」

「わたくしは、彼の方の使いとしてここにいるのです。人間風情が、頭の高い」


 ユイは左手を高く掲げ、人差し指を鋭く突きつけた。
 その薬指に嵌められた白銀の指輪が、稲妻の残光のようにチリチリと光を放った。
 ユイが人差し指を鋭く下に振り下ろすと、カイルの身体は見えぬ力に押さえつけられ、頭が無残に地面へ叩きつけられた。


「なっ……!? ユイ、やめろ……! 俺だ、カイルだ! どうして……どうしてそんな目で俺を見るんだ……!」


 床に押さえつけられたカイルの顔は苦痛と混乱で歪み、瞳には信じがたいものを見る色が浮かんでいた。


「ユイ……お前は……俺たちの仲間じゃなかったのか……?」

「これは最後の通告です。態度を改め、神への畏怖を胸に刻みなさい。次は……命はありませんよ」

「ユイ……!!」