蒼銀の王女と誓約の騎士〜生贄として連れてこられた神殿で、千年の眠りから覚めた騎士と出逢いました〜

「……セドリクス、あなたに頼みたいことがあるの」

焼け落ちる宮殿の中央で、
エルフリーデ王女は穏やかな微笑みを浮かべていた。
その横顔は炎の光に揺らぎ、神聖なまでに美しい。
だがその瞳の奥は、悲しみに濡れていた。

「この王国は……今夜で終わるわ」

「姫……まだ……! 私が殿を務めれば、あなたお一人だけでも逃がすことは――」

「いいえ、逃げないわ。私は王家の娘。国と民を置いて生き延びることはできない」

それは覚悟の微笑。
セドリクスの胸が痛んだ。
こんな時でさえ、
彼女は自分より他者を優先する。

「でも……いつかまた、この国は蘇る。遠い未来、私の血を継ぐ**“約束の姫”**が現れたとき、ルーヴェルは再び立ち上がる」

エルフリーデは彼の手を取り、
そっと自身の胸元に押し当てた。

「その時……彼女を守ってほしい。私に代わって、すべてを託すわ。――セドリクス。あなたしかいないの」

その瞬間、セドリクスの心が崩れた。

セドリクスはエルフリーデを愛していた。
言葉にすることさえ許されぬ恋だったが、
想いは消えたことがなかった。

だからこそ、こんな別れの願いなど、
本当は聞きたくなかった。

「……姫。私はあなたと共に朽ちる覚悟でした」

「ダメよ。あなたは生きなければならない。
 私が愛した、この国の未来を……あなたが繋ぐの」

 その言葉に、セドリクスの呼吸が止まった。

 ――愛した?
 今、姫は確かにそう言ったのか?