蒼銀の王女と誓約の騎士〜生贄として連れてこられた神殿で、千年の眠りから覚めた騎士と出逢いました〜

孤児院の廊下に出ると、
院長の老修道女が声をかける。

「エリシア、支度はできているかい?
 今日は……その……“王都の使者”が来る日だよ」
修道女は目を伏せ、
どこか申し訳なさそうに言った。

エリシアは意味が分からず首を傾げる。
「私に何か……用が?」

「……わからない。ただ、あの人たちは“蒼銀の髪の娘を探している”とだけ……」
胸の奥が、嫌な予感で冷たくなる。
蒼銀――自分だけに向けられるその言葉。
まるで、見えない鎖が近づいてくるように。

孤児院の扉が叩かれたのは、
その直後だった。

王都アーゼンハイトからの黒衣の神官たち。
彼らは書状を掲げ、揺るぎない声で告げた。
「――“生贄の儀式”に供するため、
 蒼銀の少女 エリシア を召し上げる」

修道女が叫ぶように反対するが、
すべては帝国の法と伝統に基づく執行だった。

“生贄”という言葉が、
理解できないほど冷たく響く。

エリシアは抵抗する間もなく連れ出され、
黒い馬車に押し込まれた。

車輪が動き出す。
孤児院が遠ざかる。
胸の奥が締めつけられるように痛む。

――その時だった。