蒼銀の王女と誓約の騎士〜生贄として連れてこられた神殿で、千年の眠りから覚めた騎士と出逢いました〜

夜の森は、
湿った土と冷えた風の匂いが漂っていた。
アーゼンハイト兵士たちの叫び声は
遠ざかりつつあるが、まだ油断はできない。

「……ここなら、しばし身を隠せる」

セドリクスはエリシアの手を強く握ったまま、
太い樹木の影に身を滑り込ませた。
荒い息を整える間も、
彼の身体は盾のようにエリシアを庇って離れない。

「ごめん……わ、私のせいで……」

震える声に、セドリクスは静かに首を振った。
その眼差しは暗闇の中でもはっきり分かるほど強く、
そして温かい。

「あなたのせいではない。——守ると決めた。今度こそ姫を失わぬために」

「ひ、姫……?」

聞き慣れない呼び方に戸惑うエリシアに、
セドリクスははっと我に返り、
言葉を飲み込んだ。

「……すまない。昔の呼び方が染みついているようだ」

その表情は苦しげで、
どこか懐かしさと痛みが同居していた。
エリシアには意味が分からない。
ただ胸の奥が少しざわめいた。

「とりあえず、夜が明けるまで安全な場所へ。歩けるか?」

「……うん」

セドリクスは彼女の手を包み、ゆっくりと導く。
その温もりに、
エリシアの心臓は妙に落ち着かなかった。

――彼の言葉の一つ一つが、胸の奥を優しく叩く。

けれど彼女は、その意味をまだ知らない。