蒼銀の王女と誓約の騎士〜生贄として連れてこられた神殿で、千年の眠りから覚めた騎士と出逢いました〜

「危ない――!」

背後から迫る殺気を察し、
セドリクスは反射的にエリシアを抱き寄せた。
直後に、アーゼンハイト兵の槍が床に突き刺さる。

「生贄を連れ戻せ! 封印が解けたぞ!」

怒号と足音が神殿を満たす。
胸に抱かれたエリシアは、
混乱と恐怖で声を失っていた。

セドリクスは彼女の肩をそっと抱き締めたまま、
短く、しかし断固として告げた。

「……エリシア。
あなたを――守るのが、私の誓いです」

その声は、
千年前の姫へ捧げられた言葉の続きだった。

神殿が崩落を始める。
「行きます。ここはもう持たない!」
エリシアはただ、
彼の腕の温かさにしがみつくことしかできなかった。

2人が逃げ込んだのは夜の闇が支配する森。
アーゼンハイト兵の松明が遠くで揺らめき、
犬の吠え声が響く。

「生贄の少女を探せ!」
「銀髪の騎士はまだ近くにいるはずだ!」

セドリクスはエリシアの手を強く握り、
森の奥へと走る。
エリシアの呼吸は荒く、足は震えていた。

「待って……私、もう……走れない……っ」

その言葉の直後、
エリシアの体がふらつく。

セドリクスは振り返ると、
迷いもなくエリシアを抱き上げた。
セドリクスの突然の行動に
エリシアは目を見開く。

「ひっ……!? ちょっ、え、え……!」

「静かに。気づかれます」

「こ、こんな抱え方しなくても……!」

「あなたの足では逃げ切れません。落ち着いて」

淡々とした声。
だが腕は驚くほど優しい。

エリシアの胸がドキドキし始め、
顔が真っ赤になる。
「……どうしよう……変な感じが……」

「どこか痛みますか?」

「ち、ちがうー!!」

声が裏返り、
セドリクスが一瞬だけきょとんとする。
「……??」

しかしその間にも追手の足音は迫っていた。