蒼銀の王女と誓約の騎士〜生贄として連れてこられた神殿で、千年の眠りから覚めた騎士と出逢いました〜

夜明け前の空は、
まだ群青の帳に包まれていた。
古都ラグナスの片隅にある古びた孤児院《サン・ローザの家》は、
冬の冷気にきしむ木造の骨組みを震わせながら、
ようやく始まろうとする朝を迎えていた。

その小さな家で、ひとりの少女が目を覚ます。

銀糸のように淡く輝く髪。
透き通る青の瞳。
この街では滅多に見ない“蒼銀”の色を持つ少女
――エリシア。

彼女は、自分がその髪と瞳を理由に
「変わり者」と扱われてきたことを知っていたが、
同じだけ、それが何故なのかをまったく知らなかった。

彼女は孤児だ。
拾われた日のことも知らず、
名も、出自も、
“家族”と呼べるものも持っていない。

ただ、時折――
耳に覚えのない言語が、夢の中で囁かれる。

〈セドリクス……〉
〈約束は……まだ……〉

聞いたことのない古い響き。
けれどエリシアは、
それを誰にも話したことがない。
話したところで笑われるだけだと知っているから。

「……今日も、同じ夢だった」

小さく呟きながら、
エリシアは硬い寝台から身を起こす。
胸の奥が、不思議な焦燥にざわめいていた。

“なにかが、近づいている気がする。”

理由は分からない。
ただ、そんな感覚だけが、
数日前からずっとまとわりついていた。