リディアは、膝をついたまま震えていた。
涙で、視界が霞んでいる。
罵声が、法廷に響いている。
「死刑だ!」
「罪人を許すな!」
全てが、終わった。
リディアは、そう思った。
だが。
リディアの中で、何かが燃え上がった。
小さな、炎。
前世の記憶。
告発できなかった、後悔。
救えなかった、人々。
そして。
エリスの笑顔。
カイルの優しさ。
領民たちの感謝。
リディアは、震える手を地面についた。
そして、立ち上がった。
よろめきながら。
鎖が、重い。
だが、リディアは立った。
「最後に」
リディアの声が、震えながらも響く。
法廷が、静まった。
リディアを、見る。
「一つだけ」
リディアの声が、少しずつ強くなる。
「話させて、ください」
国王は、手を上げた。
「許す」
国王の声が、響く。
「最後の言葉を、述べよ」
リディアは、深呼吸をした。
そして、法廷を見回した。
貴族たち。
国王。
セレナ。
アルヴィン。
全ての人々を。
「私は」
リディアの声が、静かに始まる。
「セレナの犯罪を、知っています」
リディアの声が、法廷に響く。
「それは、単なる薬の問題ではありません」
リディアは、続けた。
「これは、構造的な犯罪です」
貴族たちが、ざわめいた。
リディアは、説明を始めた。
「まず、利益優先」
リディアの声が、力を帯びる。
「セレナは、依存性物質を使いました。なぜなら、それが一番儲かるからです」
リディアの瞳が、炎のように燃える。
「依存症になれば、客は何度も買います。永遠に、買い続けます」
貴族たちが、息を呑んだ。
リディアは、続けた。
「次に、副作用隠蔽」
リディアの声が、怒りを帯びる。
「セレナは、副作用を知っていました。依存症になることも。人格が崩壊することも」
リディアの涙が、頬を伝う。
「全て、知っていたのです」
リディアは、セレナを睨んだ。
「だが、隠した」
リディアの声が、震える。
「利益のために」
セレナは、顔色を変えた。
リディアは、法廷を見回した。
「そして、告発者排除」
リディアの声が、悲痛だ。
「私が、真実を話そうとしたとき、セレナは、私を罪人に仕立て上げました」
リディアの涙が、止まらない。
「追放し、信用を奪い、命まで、奪おうとしました」
リディアは、両手を広げた。
鎖が、音を立てる。
「これが、セレナの犯罪ロジックです」
リディアの声が、法廷に響く。
「利益優先」
「副作用隠蔽」
「告発者排除」
リディアの声が、一つ一つ重い。
リディアは、目を閉じた。
前世の記憶が、蘇る。
製薬会社。
薬害事件。
告発できなかった、後悔。
リディアは、目を開けた。
涙が、溢れている。
「これは……」
リディアの声が、震える。
「前世……いえ」
リディアは、言い直した。
「歴史が、繰り返す過ちです」
リディアの声が、悲痛に響く。
「人間は、同じ過ちを繰り返します」
リディアは、法廷を見回した。
「利益のために、人の命を軽んじます」
リディアの涙が、床に落ちる。
「真実を、隠します」
リディアの声が、訴えかける。
「告発者を、排除します」
リディアは、震えながらも立ち続けた。
「私は」
リディアの声が、涙に濡れている。
「二度、同じ過ちを見ました」
リディアの瞳が、貴族たちを見つめる。
「前世でも」
「今世でも」
リディアの声が、悲痛だ。
「私は、真実を話しました。だが、誰も信じてくれませんでした」
リディアの涙が、止まらない。
「前世では、私は諦めました」
リディアの声が、自責に満ちている。
「そして、多くの人が犠牲になりました」
リディアは、拳を握りしめた。
「だから、今世では」
リディアの声が、強くなる。
「もう誰も、犠牲にしたくない」
リディアの瞳が、決意に満ちている。
「エリスのような、子供たちを。カイルのような、家族を失った人々を」
リディアの声が、法廷に響く。
「もう、苦しませたくない」
リディアは、膝をついた。
力が、尽きた。
「お願いします」
リディアの声が、か細い。
「真実を、見てください」
リディアの涙が、床を濡らす。
法廷が、静まり返った。
沈黙。
重い、沈黙。
貴族たちは、顔を見合わせている。
迷いの、表情。
「彼女の言葉……」
小さな囁きが、聞こえる。
「もしかして……」
「いや、しかし……」
貴族たちが、動揺している。
リディアの言葉が、心に響いたのだ。
だが、まだ誰も立ち上がらない。
恐れている。
セレナを。
権力を。
真実を語る、勇気がない。
セレナは、冷たく笑った。
「陛下」
セレナの声が、優雅だ。
「お聞きになりましたか?」
セレナは、リディアを指差した。
「前世、などと」
セレナの声が、嘲笑的だ。
「彼女は、正気ではありません」
アルヴィンも、頷いた。
「狂言です」
アルヴィンの声が、冷たい。
貴族たちの動揺が、止まった。
やはり、セレナの力は強い。
リディアは、床に倒れ込んだ。
力が、尽きた。
だが、やり遂げた。
最後の言葉を、伝えた。
「これで……」
リディアの声が、小さく呟く。
「私に、できることは……」
リディアの意識が、遠のいていく。
法廷の音が、遠くなる。
視界が、暗くなる。
リディアは、目を閉じた。
その時。
法廷の扉が、勢いよく開いた。
バン!
大きな音。
全員が、振り返った。
扉の向こうに、一人の少女が立っている。
息を切らして。
髪が、乱れている。
服が、破れている。
「マリ……?」
リディアの声が、小さく呟く。
マリだ。
かつて、リディアが救った下級薬師。
マリは、法廷に駆け込んできた。
よろめきながら。
「待って、ください!」
マリの声が、叫ぶ。
衛兵が、マリを止めようとした。
「下がれ! ここは法廷だ!」
だが、マリは構わず前に進んだ。
「証拠を、持ってきました!」
マリの声が、法廷に響く。
国王が、手を上げた。
「待て」
国王の声が、響く。
衛兵が、止まった。
国王は、マリを見た。
「証拠、とは?」
マリは、懐から厚い帳簿を取り出した。
古びた、革装丁。
だが、中身は整然としている。
「セレナ様の」
マリの声が、震える。
「薬物密造現場の、記録です!」
法廷が、ざわめいた。
セレナは、顔色を変えた。
「な、何を……」
マリは、国王に帳簿を差し出した。
「お願いします、見てください!」
マリの声が、必死だ。
国王は、衛兵に命じた。
「持ってこい」
衛兵が、帳簿を受け取り、国王に渡した。
国王は、帳簿を開いた。
ページを、めくる。
国王の顔が、徐々に険しくなっていく。
沈黙。
重い、沈黙。
リディアは、床に座ったまま見ている。
心臓が、激しく打つ。
マリ……
あなたが……
国王が、口を開いた。
「これは……」
国王の声が、驚愕に満ちている。
国王は、マリを見た。
「どこで、これを?」
マリは、震えながら答えた。
「セレナ様の、研究室です」
マリの声が、か細い。
「命がけで、忍び込みました」
マリは、リディアを見た。
涙が、溢れている。
「リディア様が……」
マリの声が、震える。
「私の命を、救ってくださいました」
マリは、拳を握りしめた。
「だから、今度は私が」
マリの声が、強くなる。
「リディア様を、救いたいと思いました」
国王は、再び帳簿を見た。
「これには……」
国王の声が、重い。
「依存性物質の、配合記録が……」
国王は、ページをめくる。
「詳細に、記されている……」
貴族たちが、ざわめいた。
「本当に……」
「依存性物質……」
国王は、続けた。
「そして、被害者リストも」
国王の声が、怒りを帯びる。
「名前、症状、購入履歴」
「全て、記録されている」
国王は、セレナを見た。
冷たい、目。
「セレナ」
国王の声が、厳格だ。
「これは、何だ?」
セレナは、顔面蒼白になった。
震えている。
「そ、それは……」
セレナの声が、震える。
「偽造です!」
セレナの声が、叫ぶ。
「私は、そんなものを……」
セレナは、マリを睨んだ。
「この娘が、捏造したのです!」
セレナの声が、必死だ。
マリは、首を横に振った。
「違います!」
マリの声が、強い。
「これは、セレナ様の筆跡です!」
マリは、国王を見た。
「筆跡鑑定を、してください!」
国王は、頷いた。
「そうする」
国王は、侍従に命じた。
「筆跡鑑定士を、呼べ」
侍従が、走って行った。
セレナは、震えていた。
顔が、青白い。
アルヴィンも、動揺している。
「セレナ様……これは……」
セレナは、答えられなかった。
やがて、筆跡鑑定士が到着した。
老人の、学者。
国王は、帳簿を見せた。
「この筆跡を、鑑定せよ」
「セレナの筆跡と、一致するか?」
鑑定士は、眼鏡をかけた。
そして、帳簿を見る。
じっくりと。
沈黙。
法廷全体が、固唾を呑んで見守っている。
やがて、鑑定士が口を開いた。
「陛下」
鑑定士の声が、響く。
「この筆跡は」
鑑定士は、セレナを見た。
「セレナ・ヴィオレットの、筆跡と一致します」
法廷が、どよめいた。
「本物だ……」
「セレナ様が……」
「本当に、やっていたのか……」
セレナは、後ずさった。
「違う……これは……」
セレナの声が、震える。
「偽造です!誰かが私の筆跡を真似たのです!」
セレナの声が、必死に響く。
だが、貴族たちの目は冷たい。
信じない、目。
マリは、さらに前に出た。
「私は、見ました」
マリの声が、震えながらも強い。
「セレナ様が、この帳簿に書き込んでいるのを」
マリの瞳が、真剣だ。
「研究室で、一人で」
マリは、国王を見た。
「私は、その場面を目撃したのです」
セレナは、顔面蒼白になった。
「嘘……嘘よ……」
セレナの声が、か細い。
国王は、帳簿を閉じた。
そして、じっとセレナを見つめた。
沈黙。
重い、沈黙。
国王の目が、怒りを帯びている。
リディアは、床に座ったまま見ていた。
心臓が、激しく打つ。
これで……
真実が……
カイルも、鎖に繋がれたまま見つめている。
拳を、握りしめて。
アルヴィンは、青ざめた顔でセレナを見ていた。
「セレナ様……」
アルヴィンの声が、震える。
法廷全体が、息を呑んで国王の言葉を待っている。
真実は、明らかになった。
だが、まだ終わっていない。
国王の裁断が、下されるまでは。
国王は、ゆっくりと立ち上がった。
玉座から。
法廷全体が、息を呑んだ。
国王の顔。
それは、目覚めたような表情だった。
長い眠りから、目覚めたような。
国王は、セレナを見た。
真っ直ぐに。
「セレナ・ヴィオレット」
国王の声が、法廷に響く。
重く。
厳格に。
「お前を、逮捕する」
セレナは、震えた。
「陛下……」
セレナの声が、か細い。
国王は、続けた。
「真実を、明らかにせよ」
国王の声が、命令する。
「お前の罪を、全て話せ」
セレナは、後ずさった。
「私は……何も……」
国王は、手を上げた。
「衛兵」
衛兵たちが、セレナに近づいた。
「お前の研究室を、捜索する」
国王の声が、断定的だ。
「全ての証拠を、集める」
セレナは、顔面蒼白になった。
「や、やめて……」
だが、国王は容赦しない。
「連行せよ」
衛兵たちが、セレナの腕を掴んだ。
「離しなさい!」
セレナの声が、叫ぶ。
「私は……私は……!」
だが、衛兵は動じない。
セレナを、引きずっていく。
セレナは、抵抗した。
だが、無駄だった。
「助けて! 殿下!」
セレナは、アルヴィンを見た。
だが、アルヴィンは目を逸らした。
青ざめた、顔。
国王は、アルヴィンも見た。
「アルヴィン」
国王の声が、冷たい。
「お前も、同罪だ」
アルヴィンは、震えた。
「父上……」
国王は、首を横に振った。
「お前は、セレナに加担した」
国王の声が、厳しい。
「真実を、隠蔽しようとした」
国王は、続けた。
「王子の位を、剥奪する」
アルヴィンは、膝をついた。
「父上……お許しを……」
だが、国王は聞かなかった。
「連行せよ」
衛兵たちが、アルヴィンも連行していく。
二人は、法廷から消えていった。
その時。
法廷の扉が、再び開いた。
カイルの部下たちが、駆け込んできた。
そして、その中に。
小さな女の子。
エリスだ。
「パパ!」
エリスの声が、叫ぶ。
カイルは、目を見開いた。
「エリス……!」
衛兵が、カイルの鎖を外した。
カイルは、走った。
エリスへ。
「パパ!」
エリスは、カイルに飛びつくように抱きついた。
泣きながら。
「怖かった……」
エリスの声が、震える。
カイルは、エリスを強く抱きしめた。
「もう、大丈夫だ」
カイルの声が、優しい。
「お前を、守る」
エリスは、カイルの胸で泣き続けた。
カイルの部下が、報告した。
「侯爵、刺客たちは全員拘束しました」
部下の声が、響く。
「お嬢様は、無事です」
カイルは、頷いた。
「よくやった」
カイルは、エリスを抱いたままリディアの方を見た。
リディアは、床に座り込んでいた。
涙を、流しながら。
カイルは、エリスを降ろした。
「ちょっと待っていろ」
カイルの声が、優しい。
エリスは、頷いた。
カイルは、リディアの元へ駆け寄った。
そして、リディアを抱き起こした。
「リディア」
カイルの声が、温かい。
リディアは、カイルを見上げた。
涙で、視界が霞んでいる。
「カイル……」
リディアの声が、震える。
カイルは、リディアを抱きしめた。
強く。
「よく戦った」
カイルの声が、リディアの耳元で響く。
「お前は、俺の誇りだ」
リディアは、カイルの胸で泣き崩れた。
声を上げて。
「やっと……」
リディアの声が、震える。
「やっと……真実が……」
リディアの涙が、止まらない。
「前世でできなかったことを……」
リディアの声が、途切れる。
「やっと……成し遂げました……」
カイルは、リディアの背中を撫でた。
「ああ、お前は勝った」
カイルの声が、優しい。
「お前は、真実を明らかにした」
エリスも、リディアに駆け寄ってきた。
「リディア先生!」
エリスは、リディアに抱きついた。
「先生、すごいよ!」
リディアは、エリスも抱きしめた。
「エリス……無事で……良かった……」
三人は、抱き合った。
マリも、涙を流しながら見ていた。
国王は、玉座に座り直した。
そして、リディアを見た。
「リディア・アーシェンフェルト」
国王の声が、響く。
リディアは、顔を上げた。
国王は、続けた。
「お前の無実を、認める」
国王の声が、厳かだ。
「そして、お前の功績を、讃える」
貴族たちが、拍手をした。
小さく。
だが、確かに。
リディアは、涙を流した。
勝利の、涙。
カイルは、リディアを抱きしめ続けた。
「お前は、よくやった」
カイルの声が、温かい。
リディアは、カイルの腕の中で微笑んだ。
やっと、終わった。
長い、戦いが。
リディアは、目を閉じた。
カイルの温もりを、感じながら。
エリスの笑顔を、思い浮かべながら。
そして、前世の自分に語りかけた。
「やっと……果たせました……」
リディアの心の中で、誓いが響く。
「今度こそ……真実を明らかにできました……」
法廷に、静かな拍手が広がっていた。