翌朝。
王都の中央広場。
大きなテントが、張られている。
「無料健康診断」の看板。
リディアは、テントの中にいた。
机の上に、診断道具が並んでいる。
カイルが、リディアの隣に立っている。
「準備は、いいか?」
カイルの声が、低く響く。
リディアは、深呼吸をした。
「はい」
リディアの声が、決意に満ちている。
「始めましょう」
カイルは、テントの外に出た。
そして、声を上げた。
「無料健康診断を、開始する」
カイルの声が、広場に響く。
「カイル・ヴァレンティス侯爵の保証する、診断だ」
人々が、集まってきた。
貴族たち。
夫人たち。
若い令嬢たち。
みんな、興味深そうに見ている。
「無料……ですか?」
「侯爵様が保証……」
「試してみようかしら……」
最初の貴族夫人が、テントに入ってきた。
豪華なドレス。
宝石の首飾り。
だが、顔色が悪い。
リディアは、立ち上がった。
「ようこそ」
リディアの声が、優しい。
「お座りください」
夫人は、椅子に座った。
リディアは、夫人の手を取った。
脈を、確認する。
前世の知識が、蘇る。
「少し、目を見せていただけますか?」
リディアは、夫人の目を見た。
瞳孔が、開いている。
リディアは、続けた。
「最近、何か薬を服用していますか?」
夫人は、頷いた。
「ええ、セレナ様の美容秘薬を。毎日、飲んでいますわ」
リディアは、心の中で頷いた。
やはり。
リディアは、さらに診断を続けた。
手の震え。
発汗。
集中力の低下。
全て、依存症の兆候だ。
リディアは、静かに言った。
「夫人」
リディアの声が、真剣だ。
「あなたは、薬物依存症です」
夫人は、顔色を変えた。
「い、依存症……ですって?」
夫人の声が、震える。
「まさか……」
リディアは、診断結果を紙に書いた。
「セレナ様の秘薬には、依存性物質が含まれています」
リディアの声が、静かに響く。
「長期使用で、体が薬なしでいられなくなります」
夫人は、震えた。
「で、でも……セレナ様は安全だと……」
リディアは、夫人の手を握った。
「大丈夫です。治療できます」
リディアの声が、優しい。
「私が、お薬をお作りします」
夫人は、涙を流した。
「本当に……治るのですか……」
リディアは、頷いた。
「はい、必ず」
夫人は、テントを出た。
そして、周りの貴族たちに言った。
「私……依存症だったそうです……」
貴族たちが、ざわめいた。
「依存症……」
「セレナ様の薬が……」
次々と、貴族たちがテントに入ってきた。
リディアは、一人一人を診断した。
前世の知識を、総動員して。
依存症の兆候を、見つけ出す。
「あなたも、依存症です」
「あなたも、です」
次々と、診断結果が出る。
貴族たちは、驚愕と恐怖に震えた。
「まさか……」
「私も……」
「セレナ様の薬が、原因だったなんて……」
広場が、騒然としてきた。
カイルは、記録係に指示を出した。
「全て、記録しろ」
「漏らすな」
記録係が、次々とデータを書き込む。
診断人数。
依存症患者の数。
症状の詳細。
全て、記録されていく。
午後。
リディアは、一瞬休憩した。
カイルが、水を差し出した。
「疲れたか?」
リディアは、水を飲んだ。
「少し……でも、大丈夫です」
リディアは、記録用紙を見た。
「これまでに、五十人以上……」
リディアの声が、震える。
「全員、依存症でした」
カイルは、記録用紙を見た。
「全員、セレナの秘薬を使用していた」
カイルの声が、低く沈む。
リディアは、頷いた。
「これで、証明できます」
リディアの瞳が、希望に満ちている。
「セレナの薬が、依存性物質だと」
リディアは、立ち上がった。
「もっと、診断を続けます」
リディアの声が、力強い。
「一人でも多く、救いたいです」
カイルは、リディアの肩に手を置いた。
「無理はするな」
カイルの声が、優しい。
リディアは、微笑んだ。
「大丈夫です」
午後も、診断は続いた。
貴族たちが、次々と訪れる。
広場は、人で溢れている。
噂が、王都中に広がっていた。
「セレナの秘薬が、危険らしい」
「依存症になるそうだ」
「リディア様が、診断してくれるそうだ」
夕方。
リディアは、最後の患者を診断した。
「あなたも、依存症です」
「治療しましょう」
患者は、涙を流した。
「ありがとうございます……」
リディアは、記録用紙を見た。
今日一日で。
百人以上を診断した。
そのうち、五十三人が依存症だった。
全員、セレナの秘薬を使用していた。
リディアは、カイルを見た。
「カイル……」
リディアの声が、震える。
「これで……」
カイルは、頷いた。
「ああ、証拠だ」
カイルの声が、力強い。
「セレナの罪を、証明する証拠だ」
リディアは、涙が溢れた。
だが、悲しみの涙ではない。
希望の、涙。
「やっと……」
リディアの声が、震える。
「やっと、ここまで来れました……」
カイルは、リディアの肩に手を置いた。
「よくやった」
カイルの声が、優しい。
リディアは、記録用紙を見つめた。
五十三人の依存症患者。
全員、セレナの秘薬を使用していた。
これが、証拠だ。
「これで……」
リディアの声が、希望に満ちている。
「証明できる……」
リディアは、カイルを見上げた。
「セレナの薬が、依存性物質だと」
カイルは、頷いた。
「ああ、十分な証拠だ」
カイルの声が、力強い。
リディアは、深く息を吐いた。
「前世では、できなかったこと」
リディアの瞳が、決意に満ちている。
「今度こそ、成し遂げます」
広場では、診断を受けた貴族たちが集まっている。
不安そうな、顔。
だが、リディアを信頼する、目。
カイルは、リディアの手を握った。
「休め。明日も、診断は続く」
リディアは、頷いた。
「はい」
夕日が、広場を照らしている。
希望の、光。
リディアは、その光の中で微笑んだ。
翌日。
診断は、二日目に入った。
広場には、昨日よりも多くの人が集まっている。
貴族たち。
平民たち。
みんな、不安そうな顔をしている。
リディアは、テントの中で診断を続けていた。
また一人。
また一人。
依存症患者が、見つかる。
データが、蓄積されていく。
その時。
広場に、騒ぎが起こった。
「セレナ様だ!」
「セレナ様が来られた!」
人々の声が、響く。
リディアは、手を止めた。
心臓が、激しく打つ。
セレナが、広場に現れた。
豪華なドレス。
金髪が、陽光に輝いている。
美しい、笑顔。
だが、目は冷たい。
セレナは、広場の中央に立った。
そして、声を上げた。
「皆様!」
セレナの声が、広場に響く。
「騙されてはいけません!」
人々が、セレナに注目する。
セレナは、リディアのテントを指差した。
「リディアの診断こそ、嘘です!」
セレナの声が、大きく響く。
人々が、ざわめいた。
「嘘……ですって?」
「どういうこと……」
セレナは、続けた。
「彼女の薬が、人を病気にしているのです!」
セレナの声が、広場を支配する。
「私の秘薬は、安全です!」
セレナは、優雅に微笑んだ。
「何年も、皆様にお使いいただいています」
セレナの声が、甘く響く。
「問題など、ありませんでした」
人々が、迷い始めた。
「確かに……何年も使っているけど……」
「セレナ様の薬は、有名だし……」
セレナは、リディアを睨んだ。
「リディア」
セレナの声が、冷たい。
「婚約を破棄された女の言葉を」
セレナは、人々を見回した。
「皆様は、信じるのですか?」
セレナの声が、扇動的だ。
「第三王子殿下が見放した、不出来な女の言葉を!」
人々が、ざわめいた。
「そういえば……婚約破棄されたんだった……」
「殿下が見放した女だったのか……」
リディアは、テントから出た。
「違います!」
リディアの声が、震える。
「私は、真実を話しています!」
だが、人々は疑いの目を向ける。
その時。
アルヴィンが、現れた。
金髪の、王子。
整った、顔立ち。
人々が、驚いた。
「第三王子殿下!」
「殿下が、なぜここに……」
アルヴィンは、セレナの隣に立った。
そして、リディアを見た。
冷たい、目。
「リディアは」
アルヴィンの声が、広場に響く。
「元婚約者への私怨で、嘘をついています」
アルヴィンの声が、断定的だ。
「彼女は、セレナ様を妬んでいるのです」
人々が、ざわめいた。
「私怨……」
「嫉妬……」
「やっぱり、嘘だったのか……」
リディアは、震えた。
「違う……」
リディアの声が、か細い。
「私は……」
だが、人々の目は冷たい。
疑いの、目。
拒絶の、目。
一人の男が、叫んだ。
「嘘つき!」
男の声が、広場に響く。
別の男が、石を拾った。
「詐欺師!」
石が、リディアに向かって飛んできた。
リディアは、避けた。
だが、次の石が飛んでくる。
「出て行け!」
「王都から消えろ!」
次々と、石が飛んでくる。
リディアは、腕で顔を守った。
「また……」
リディアの声が、絶望に沈む。
「また、同じことが……」
石が、リディアの肩に当たった。
痛い。
リディアは、よろめいた。
「前世と……」
リディアの声が、震える。
「同じ……」
リディアは、膝をついた。
石が、次々と飛んでくる。
「嘘つき!」
「嫉妬深い女!」
「消えろ!」
罵声が、リディアを襲う。
リディアは、地面に手をついた。
涙が、溢れる。
「また……」
リディアの声が、絶望に満ちている。
「誰も……信じてくれない……」
カイルが、リディアの前に立った。
剣を、抜いて。
「これ以上、近づくな!」
カイルの声が、怒りに満ちている。
人々は、カイルの威圧に押されて後退した。
だが、罵声は止まらない。
「侯爵様まで、騙されている!」
「あの女は、魔女だ!」
セレナは、冷たく笑っていた。
「哀れね、リディア」
セレナの声が、嘲笑的だ。
「誰も、あなたを信じないわ」
アルヴィンも、冷たい目でリディアを見ている。
リディアは、地面に座り込んだ。
震えが、止まらない。
「また……失敗した……」
リディアの涙が、地面に落ちる。
「前世と……同じ……」
カイルは、リディアを抱き上げた。
「リディア、しっかりしろ!」
カイルの声が、必死だ。
だが、リディアの目は虚ろだった。
広場は、混乱していた。
罵声。
石。
拒絶。
全てが、リディアを襲う。
セレナは、勝ち誇ったように笑っていた。
その時。
衛兵が、広場に駆け込んできた。
息を切らして。
「カイル侯爵!」
衛兵の声が、叫ぶ。
カイルは、振り返った。
「何事だ?」
衛兵は、青ざめた顔をしている。
「お嬢様が……」
衛兵の声が、震える。
「エリス様が、連れ去られました!」
カイルの顔色が、変わった。
「何だと……!」
カイルの声が、怒りに震える。
その時。
広場の片隅から、黒装束の男が現れた。
手に、小さな女の子を抱えている。
エリスだ。
「パパ……!」
エリスの声が、泣いている。
口に、布が当てられている。
カイルは、剣を抜いた。
「娘を、離せ!」
カイルの声が、怒りに満ちている。
黒装束の男は、冷たく笑った。
「侯爵」
男の声が、低く響く。
「大人しく、しろ」
男は、エリスの首に短剣を当てた。
エリスが、悲鳴を上げる。
「動けば、この子の命はない」
男の声が、脅迫的だ。
カイルは、歯を食いしばった。
剣を、握りしめる。
だが、動けない。
娘の、命。
カイルの手が、震えた。
「畜生……!」
カイルの声が、絞り出される。
リディアは、立ち上がった。
「エリス……!」
リディアの声が、叫ぶ。
黒装束の男は、リディアを見た。
「お前のせいだ」
男の声が、冷たい。
「大人しく、諦めろ」
男は、エリスを連れて消えていった。
人混みの、中へ。
カイルは、追おうとした。
だが。
複数の衛兵が、カイルを取り囲んだ。
「カイル・ヴァレンティス侯爵」
衛兵長の声が、響く。
「王命により、拘束する」
カイルは、衛兵長を睨んだ。
「何だと……」
衛兵長は、巻物を読み上げた。
「侯爵の立場を悪用した越権行為」
衛兵長の声が、厳格だ。
「無許可の医療行為」
「民衆扇動の罪」
カイルは、拳を握りしめた。
「馬鹿な……!」
だが、衛兵たちは容赦しない。
カイルの腕を、掴む。
「抵抗すれば、お嬢様の命はない」
衛兵長が、冷たく囁いた。
カイルは、抵抗をやめた。
娘の、命。
それだけが、カイルを止めた。
リディアも、衛兵に掴まれた。
「リディア・アーシェンフェルト」
衛兵の声が、響く。
「お前も、拘束する」
リディアは、抵抗する力もなかった。
ただ、連行されるだけ。

数時間後。
王宮の法廷。
リディアとカイルは、鎖に繋がれていた。
貴族たちが、周囲に座っている。
冷たい、視線。
国王が、玉座に座っている。
その隣に、セレナが立っている。
勝ち誇った、笑顔。
アルヴィンも、そこにいる。
国王が、口を開いた。
「リディア・アーシェンフェルト」
国王の声が、厳格だ。
「お前の罪は、重い」
国王は、リディアを見下ろした。
「虚偽の診断で、民衆を惑わした」
貴族たちが、頷く。
「その通りだ」
「罪人め」
セレナが、前に出た。
「陛下」
セレナの声が、優雅だ。
「リディアの薬こそ、危険です」
セレナは、リディアを指差した。
「彼女の薬が、人々を病気にしたのです」
貴族たちが、ざわめいた。
「そうだったのか……」
「やはり、嘘だったのか……」
リディアは、首を横に振った。
「違います……」
リディアの声が、か細い。
「私は……真実を……」
だが、誰も聞いていない。
国王が、手を上げた。
「リディア」
国王の声が、冷たい。
「お前の全ては、嘘だ」
国王の言葉が、リディアを打つ。
リディアは、震えた。
「違う……」
リディアの涙が、溢れる。
「私は……嘘なんて……」
貴族の一人が、叫んだ。
「追放では、足りない!」
「死刑だ!」
「詐欺師を、許すな!」
罵声が、法廷に響く。
リディアは、膝をついた。
鎖が、重い。
心が、折れそうだった。
カイルが、叫んだ。
「待て!」
カイルの声が、法廷に響く。
「リディアは、無実だ!」
だが、国王は首を横に振った。
「カイル侯爵」
国王の声が、厳しい。
「お前も、同罪だ」
国王は、続けた。
「侯爵の立場を悪用し、虚偽の医療行為を支援した」
国王の声が、断定的だ。
「爵位剥奪」
「領地没収」
カイルは、顔色を変えた。
「陛下……」
国王は、冷たく言った。
「お前たちは、全てを失った」
セレナが、笑っている。
勝利の、笑み。
アルヴィンも、冷たい目でリディアを見ている。
リディアは、涙で視界が霞んだ。
「エリス……」
リディアの声が、震える。
「ごめんなさい……」
リディアは、カイルを見た。
カイルも、鎖に繋がれている。
無力な、姿。
「カイル……」
リディアの涙が、止まらない。
「ごめんなさい……」
全てを、失った。
証拠も。
信用も。
自由も。
エリスの命も、危ない。
リディアは、絶望に沈んだ。
視界が、霞む。
涙で、何も見えない。
法廷の罵声が、遠くなる。
リディアは、意識が遠のきそうになった。
絶体絶命。
全てが、終わった。